切り返し(きりかえし)とは、相手のひざの外側に自分のひざを当て、後ろにひねるように倒して勝つ相撲の決まり手です。日本相撲協会が定める決まり手八十二手のうち「掛け手」18手の1つで、説明に「ひねる」が入っても捻り手ではありません。協会の集計では、平成25年1月場所から令和8年9月場所千秋楽までの192,672番のうち324回・27位です。相撲レファレンスの記録を当サイトが数えたところ、幕内の直近は2026年9月場所6日目の美ノ海-藤凌駕でした。協会が説明の中で比べている外掛けとは、相手の足に自分の足を掛けない点が違います。車の運転や剣道でいう「切り返し」は、同じ字を使う別の意味です。
この記事でわかること
- 相撲の切り返しの公式の定義と、「ひざを当てる・支点にする・ひねり倒す」の3コマ図
- 192,672番のうち324回・27位という数字の中身と、協会が挙げる多い力士16人
- 外掛け・内掛け・河津掛けとの違いの表と見分け図
- 舞の海の33番から安青錦・藤青雲まで、幕内の使い手の記録
- 遠藤・安青錦・伯乃富士が横綱を切り返しで倒した3番
- 車・剣道・ゴルフ・映画・相場の「切り返し」との区別
切り返しとは|相手の膝の外側に自分の膝を当て、後ろへひねり倒す掛け手
相撲の切り返しとは、相手のひざの外側に自分のひざを当て、後ろへひねるように倒して勝つ掛け手です。
日本相撲協会の公式サイトは、切り返しを次のように説明しています。
左(右)からの場合は、相手の右(左)ひざの外側に自分のひざを当てて、後ろにひねるように倒して勝ちます。
「外掛け」とは違い、相手の膝に足をかけず、また自分の足は土俵につけたままなのがこの技です!
当てるのは足ではなくひざで、当てる場所は相手のひざの外側です。下の図は、協会の2つの説明文を当サイトが3つの場面に分けたものです。
協会の説明は2通りあり、キッズページは「膝の内側」「支点」まで書く
協会は詳細ページとキッズページで切り返しを別の文で説明しており、後者はひざの当て方と支点まで書いています。
協会のキッズページの解説画像は、切り返しを「相手の右(左)膝の外側に自分の左(右)膝の内側を当てて、そこを支点にして、相手を後ろにひねるように倒して勝ちます。」と説明しています(出典:日本相撲協会「ハッキヨイ!せきトリくん おしえて八十二手」)。詳細ページの「自分のひざ」を「自分の左(右)膝の内側」と具体的に書き、当てたひざを「支点」にすると添えた形です。
辞典の説明も協会とほぼ同じです。デジタル大辞泉は「相手の膝の外側に自分の膝の内側をあてて横後ろにひねり倒す」、ブリタニカ国際大百科事典は、ひざを当てるか外掛けにからみ、後ろへひねり倒すと書いています(コトバンク所収:デジタル大辞泉・ブリタニカ国際大百科事典「切り返し」)。
一方、Wikipediaは『大相撲ジャーナル』2017年7月号を出典に「相手の膝の裏側に自身の膝を当て」と書き(出典:Wikipedia「切り返し」)、舞の海のインタビュー記事も同じ言い方で技を紹介しています(出典:nippon.com)。協会の「ひざの外側」とは言葉が違うので、当サイトは協会の説明を軸にしています。
「ひねる」技だが分類は掛け手で、掛け手18手のうち2番目に多い
切り返しは協会の分類で掛け手に入り、掛け手18手の回数では外掛けに次ぐ2番目です。
協会の大相撲クイズ(No.1267)は、掛け手を「相手の足に自分の足をかける技や、相手の足を手で取る技」と定義し、18手の4番目に切り返しを挙げています(出典:日本相撲協会「大相撲クイズ No.1267」)。「後ろにひねるように倒す」と説明されても、突き落としや下手捻りと同じ捻り手には入っていません。決まり手の全体像は相撲の決まり手一覧【全82手+非技5】にまとめています。
| 回数の順 | 掛け手の技名 | 全体の順位 | 回数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 外掛け | 20位 | 573 |
| 2 | 切り返し | 27位 | 324 |
| 3 | 足取り | 30位 | 280 |
| 4・5 | 渡し込み・内掛け | 35位・36位 | 216・148 |
| 6〜8 | 蹴返し・裾払い・小股掬い | 39位〜52位 | 116〜42 |
| 9〜12 | ちょん掛け・蹴手繰り・二枚蹴り・河津掛け | 58位〜64位 | 25〜17 |
| 13〜18 | 小褄取り・外小股・裾取り・大股・三所攻め・褄取り | 71位〜83位 | 6〜0 |
同じ掛け手で、相手の足を手で取る側の代表は足取り、足を内側から掛ける側の代表は内掛けです。
読みは「きりかえし」、英語では kirikaeshi・twisting backward knee trip
読みは辞典も協会も「きりかえし」で、協会の英語の取組データはローマ字の kirikaeshi だけを使っています。
辞典の表記は「切り返し」「切返し」「切返」が並びます。協会の英語で意味を訳した名前は見つかりませんでした。英語版Wikipediaと和英辞書データのJMdictは、切り返しを twisting backward knee trip と訳しています(出典:Wikipedia英語版「Kimarite」)。
切り返しはどれくらい出るのか|192,672番のうち324回・27位
協会の集計では、平成25年1月場所から令和8年9月場所千秋楽までの192,672番で324回、27位です。
1つ上の26位は下手捻りの364回、1つ下の28位は引っ掛けの303回です。割合は協会の一覧では0.17%、詳細ページでは0.2%と出ます。324÷192,672は約0.168%で、一覧は小数第2位、詳細ページは小数第1位までで丸めて表示しているため、数字が違って見えます。どちらかが誤りなのではなく、丸めの桁の違いです。
協会は324回がどの階級の取組かを書いていません。相撲レファレンスで同じ期間の切り返しを幕内から序ノ口まで数えると、幕内44・十両27・幕下61・三段目71・序二段86・序ノ口35の計324番で、前相撲の1番を除くと協会の数と一致します。2020年以降は年18〜25番で、2026年は9月場所までに22番です(相撲レファレンスの記録を当サイトが数えたもの)。
協会の多い力士は慶天海の11回、現役では安青錦・藤青雲・琴栄峰
協会が挙げる切り返しの多い力士16人のうち最多は、元十両の慶天海の11回です。
| 回数 | 力士(協会の表示・令和8年9月場所の番付) |
|---|---|
| 11 | 慶天海(元十両十一枚目・令和6年3月場所引退) |
| 6 | 遠藤(元小結・令和7年11月場所引退)/颯天(元三段目・引退)/宇瑠寅(西序二段九十五枚目)/千代太陽(西三段目六十二枚目)/安青錦(東大関) |
| 5 | 東龍(元前頭・引退)/爆虎神(西序ノ口二枚目)/藤青雲(東前頭七枚目)/琴栄峰(西前頭筆頭) |
| 4 | 石浦(元前頭・引退)/海舟(元三段目・引退)/佐田ノ国(東序二段四十三枚目)/豊昇龍(西横綱)/月岡(西三段目四十三枚目)/欧山田(東幕下三十九枚目) |
この表の回数は幕内だけの数ではなく、平成25年以降の全階級の合計です。相撲レファレンスの記録を当サイトが数えたところ、上位10人と石浦の回数はどれも協会と一致しました。安青錦の6番は幕内4・十両1・三段目1です。現役の幕内では、安青錦・藤青雲・琴栄峰・豊昇龍の4人が並びます。安青錦の歩みは安青錦の力士紹介に、琴栄峰は琴栄峰の力士紹介にまとめています。
幕内では1927年以降928番、1950年代に山がある
相撲レファレンスの記録を当サイトが数えたところ、幕内の切り返しは1927年1月場所から928番あります。
| 年代 | 幕内の切り返し |
|---|---|
| 1920年代(1927年〜) | 17 |
| 1930年代 | 57 |
| 1940年代 | 82 |
| 1950年代 | 218 |
| 1960年代 | 168 |
| 1970年代 | 103 |
| 1980年代 | 60 |
| 1990年代 | 107 |
| 2000年代 | 60 |
| 2010年代 | 30 |
| 2020年代(〜2026年9月) | 26 |
相撲レファレンスに残る最も古い幕内の切り返しは、1927年1月場所9日目の一ノ濱-常陸嶽ほか同じ日の2番です。年で見ると1955年の34番、1956年の31番が最も多く、2010年代は10年で30番まで減りました。全階級では2,789番ありますが、十両は1956年、三段目は1983年、幕下は1991年からしか記録に出てこないので、階級どうしの比較には使えません。
相撲レファレンスでは幕内の河津掛けが1944〜1959年に1番もないため、1950年代の「切り返し」には後の河津掛けにあたる取組が混じっている可能性があります(下の河津掛けの節。当サイトは確かめていません)。
令和8年9月場所は全段で5番、幕内は藤青雲と美ノ海
令和8年9月場所の切り返しは、協会の取組データで全2,222番のうち5番、幕内では2番でした。
内訳は幕内2・三段目2・序ノ口1で、同じ場所の外掛けは8番でした。幕内の2番は、協会の取組解説が決まった形まで書いています。
- 3日目(9月15日):東前頭七枚目の藤青雲が尊富士に勝ち、3連勝。解説は「尊富士苦しまぎれの小手投げをなんのとしのいで右切り返し」
- 6日目(9月18日):西前頭三枚目の美ノ海が藤凌駕に勝ち、5勝1敗。解説は「藤凌駕窮余の左首投げをしのぎ切っての右切り返し」
どちらも、相手が苦しまぎれに打った投げを残してから切り返しています(出典:日本相撲協会 取組結果)。6日目のほかの取組は【秋場所6日目】の取組まとめで振り返っています。
切り返しと外掛け・内掛け・河津掛けの違い|足を掛けるか、膝を当てるか
切り返しは相手の足に自分の足を掛けない技で、足を掛けて引く外掛け・内掛け・河津掛けとはそこで分かれます。
協会の説明文を並べると、相手の脚のどこに、自分の何を使うかで見分けられます。
| 技(分類) | 相手の脚への攻め方(協会の説明) | 倒し方(協会の説明) | 回数・順位 |
|---|---|---|---|
| 切り返し(掛け手) | 相手のひざの外側に自分のひざを当てる。足は掛けず、自分の足は土俵につけたまま | 後ろにひねるように倒す | 324回・27位 |
| 外掛け(掛け手) | 自分の足を相手の足の外側から掛けて引く | 後ろに倒す | 573回・20位 |
| 内掛け(掛け手) | 自分の足を相手の足の内側に掛けて引く | 重心を失わせ仰向けに倒す | 148回・36位 |
| 河津掛け(掛け手) | 足を相手の足の内側に掛けて跳ね上げ、同時に首などを抱え込む | 体を反って後ろに倒す | 17回・64位 |
| 外無双(捻り手) | 手で相手のひざの外側を払う | 差し手を抱えてひねり倒す | 0回(一覧で87位) |
| 掛け投げ(投げ手) | 片足を相手の内股に入れて掛け、跳ね上げる | 投げる | 292回・29位 |
この図は協会の説明文を当サイトが並べ替えたもので、協会の判定基準ではありません。
外掛けは足を掛けて引き、切り返しは足を土俵につけたまま膝を当てる
外掛けは足を相手の足に外側から掛けて引く技、切り返しは足を土俵につけたままひざを当てる技です。
協会は外掛けを「自分の右(左)足を相手の左(右)足の外側から掛けてその足を引き、後ろに倒して勝ちます」と説明しています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 外掛け」)。攻める側がどちらも相手の脚の外側から入るので形は似ていますが、外掛けは足を掛けて手前に引き、切り返しは足を上げずにひざを押し当てて支点にし、上体をひねって倒します。協会が切り返しの説明で名前を挙げて比べている技は、外掛けだけです。
ただし、ブリタニカ国際大百科事典は「外掛けにからみ」後ろへひねり倒す型も切り返しに含めており、両方の要素がある一番もあります。
河津掛けは1960年に切り返しから分かれた技とされる
河津掛けは、Wikipediaでは決まり手が70手になった1960年に切り返しから分かれたとされる技です。
Wikipediaの「決まり手」の記事は、1960年に出し投げが上手出し投げと下手出し投げに分かれ、切り返しから河津掛けが分離して70手になったと書いています。「切り返し」の記事にも同じ趣旨の一文がありますが、どちらにも出典の注は付いていません(出典:Wikipedia「決まり手」)。日本大百科全書は、協会が1955年に68手、1960年に70手に整理したとだけ書いています。当サイトは、切り返しが1955年の68手に入っていたと示す一覧そのものは見つけられていません。
いまの協会の説明では、河津掛けは足を相手の足の内側に掛けて跳ね上げ、首などを抱え込んで体を反る技で、切り返しとは足の入る側も体の使い方も違います。協会の大相撲クイズ No.314 は、2022年11月場所5日目の豊昇龍-翠富士の河津掛けを出題し、選択肢の1つに切り返しを置いていました(出典:日本相撲協会「大相撲クイズ No.314」)。
攻防の途中で外掛けから切り返しに移ることもある
2025年9月場所12日目の安青錦は外掛けで投げをしのいでから切り返し、決まり手は切り返しでした。
2025年9月場所12日目の安青錦-豊昇龍について、中日スポーツは「横綱の小手投げを外掛けでしのぎ、切り返した」と書いています(出典:中日スポーツ 2025年9月25日)。記事に外掛けと切り返しの両方の語が出ますが、取り違えではなく攻防の順です。Wikipediaも、半身や背中を相手に預ける姿勢のときは外掛けが切り返しと判定されやすいと書いています(出典の注なし)。外掛けとの見分けは、同じ掛け手の内掛けの記事でも図で比べています。
切り返しの使い手|舞の海の33番から安青錦・藤青雲まで
相撲レファレンスの幕内の記録では、切り返しを最も多く決めたのは舞の海の33番です。
| 力士 | 幕内の切り返し | 決めた期間 |
|---|---|---|
| 舞の海 | 33 | 1991年9月〜1998年1月 |
| 若葉山 | 21 | 1947年11月〜1960年3月 |
| 海乃山 | 20 | 1961年9月〜1969年7月 |
| 初代若乃花 | 19 | 1951年1月〜1962年1月 |
| 櫻國 | 17 | 1951年1月〜1956年3月 |
| 栃ノ海 | 15 | 1960年5月〜1966年3月 |
| 陸奥嵐・朝青龍 | 13 | 1967年〜1973年・2001年〜2010年 |
| 潮錦・安芸乃島 | 12 | 1952年〜1960年・1988年〜2002年 |
幕内の記録は舞の海33番、若葉山・海乃山・初代若乃花が続く
幕内の切り返しは舞の海の33番が最多で、若葉山21番、海乃山20番、初代若乃花19番が続きます。
舞の海は十両でも17番決めており、十両の記録でも最多です(相撲レファレンスの記録を当サイトが数えたもの)。横綱の地位で決めた数では、2代目若乃花の7番が最も多く、初代若乃花・大鵬・輪島・朝青龍が6番で並びます。
Wikipediaは、かつての力士では豪栄道が切り返しを得意としていたと書いています(出典の注なし)。相撲レファレンスで数えると、豪栄道の切り返しは幕内2番・十両5番で、数の上では上位に入りません。
舞の海は1994年名古屋場所で大関貴ノ花を切り返しで破った
1994年7月場所2日目、東前頭4枚目の舞の海が大関貴ノ花(のちの横綱貴乃花)を切り返しで破りました。
相撲レファレンスの記録でも同じ日付・決まり手で残り、舞の海はこの場所を9勝6敗で終えました。舞の海へのインタビュー記事は、この一番を貴乃花から挙げた唯一の白星として紹介し、切り返しのコツを本人が語っています(出典:nippon.com 2022年5月12日)。
2020年代は安青錦・藤青雲・遠藤・豊昇龍が幕内で決めている
相撲レファレンスの記録では、2020年以降の幕内の切り返しは26番で、安青錦と遠藤が4番ずつで最多です。
藤青雲が3番で続き、豊昇龍・照強・大の里が2番ずつ決めています。藤青雲の3番は2026年3月・7月・9月場所です。2022年5月場所には横綱照ノ富士も霧馬山を切り返しで破っています。横綱の歩みは豊昇龍の力士紹介にまとめています。
切り返しが決まった大一番|横綱を倒した3番
2020年以降の幕内では、遠藤・安青錦・伯乃富士の3人が、横綱を切り返しで倒しています。
日付は報道と相撲レファレンスの記録の両方で確かめました。
2020年初場所2日目、遠藤が白鵬から金星
2020年1月場所2日目、前頭筆頭の遠藤が横綱白鵬を切り返しで破り、初日の鶴竜戦に続く金星を挙げました。
ABEMA TIMESは、何度も投げを打つ白鵬に対し、遠藤が「膝をうまく使っていなしながら、最後は切り返しで白鵬を土俵に叩きつけた」と伝えています(出典:ABEMA TIMES 2020年1月13日)。遠藤は協会の集計でも切り返し6回で2位タイに入る使い手で、2025年11月場所で引退しました。引退した力士は引退力士一覧で確認できます。
2025年秋場所12日目、安青錦が全勝の豊昇龍を止めた
2025年9月場所12日目、小結の安青錦が11戦全勝の横綱豊昇龍を切り返しで破り、横綱の全勝を止めました。
ベースボール・マガジン社の相撲編集部は、安青錦が「ヒザを器用に密着させて」横綱の投げを許さず、「最後はそのまま切り返して横綱をひっくり返した」と書いています(出典:BBM Sports 2025年9月25日)。安青錦は新入幕だった同じ年の3月場所でも、9日目の生田目戦と千秋楽の王鵬戦を切り返しで勝っています。
2026年名古屋場所6日目、伯乃富士が物言いの末に金星
2026年7月場所6日目、前頭三枚目の伯乃富士が横綱豊昇龍を切り返しで破り、5個目の金星を挙げました。
デイリースポーツによると、軍配は豊昇龍に上がりましたが、物言いの末に行司軍配差し違えで伯乃富士の勝ちになりました。記事は、伯乃富士が「豊昇龍の強引な投げからのちょん掛けを切り返した」と書き、本人の「体が反応した」という言葉を伝えています(出典:デイリースポーツ 2026年7月18日)。伯乃富士の歩みは伯乃富士の力士紹介にまとめています。
切り返しのコツ|相手の投げに合わせ、自分から倒れながらひねる
舞の海は、切り返すときは自分から倒れ、倒れながら相手をひねるのがコツだと語っています。
以下は技の手順ではなく、力士の言葉と取組解説から、決まる場面を当サイトが読み解いたものです。
舞の海は「自分から倒れる」「倒れながら相手を捻っていく」と語った
舞の海は、師匠の高崎親方から「切り返す時は自分から倒れろ」と教わったと話しています。
舞の海は、立ったまま切り返すとひざと手の力だけになるので、相手を抱き込んだら自分から倒れ、「倒れながら相手を捻っていく―これがコツ」と説明しています(出典:nippon.com 2022年5月12日)。協会の説明が「ひざを当てて、後ろにひねるように倒す」とだけ書く部分を、体全体の重さを使うと言い換えた形だと当サイトは読んでいます。
取組解説と報道に残る5番は、どれも相手の投げをしのいだ直後
協会の取組解説と報道で確かめた5番は、どれも相手が投げを打ち、それを残した直後に決まっています。
- 2026年9月場所3日目 藤青雲-尊富士:尊富士の小手投げをしのいで右切り返し(協会の取組解説)
- 2026年9月場所6日目 美ノ海-藤凌駕:藤凌駕の左首投げをしのぎ切って右切り返し(同)
- 2025年9月場所12日目 安青錦-豊昇龍:横綱の小手投げを外掛けでしのぎ、切り返した(中日スポーツ)
- 2026年7月場所6日目 伯乃富士-豊昇龍:投げからのちょん掛けを切り返した(デイリースポーツ)
- 2024年1月場所14日目 大の里-佐田の海:左上手からの投げを左足一本でこらえて反撃(中日スポーツ)
大の里の一番は、新入幕で10勝目を挙げた取組です(出典:中日スポーツ 2024年1月27日)。投げを打った相手は体が片側へ流れ、片足に重さが乗っています。そのひざの外側にひざを当てれば、相手が自分でかけた勢いごと後ろへ回せる、というのが当サイトの読み解きです。伯乃富士が「横綱が苦しい投げ、引きがあればチャンスと思っていた」と話しているのも、この形と重なります。
相撲以外の「切り返し」|車・剣道・ゴルフ・映画・相場の意味
「切り返し」は、相撲のほかに車の運転・剣道・映画・相場などでも使う言葉で、辞典は9〜11の意味を並べています。
「切り返し」を検索すると、上位9件のうち相撲だけを扱うページは1件で、剣道・ゴルフ・車の説明が多く並びます(当サイトの検索結果の確認、2026年10月1日)。同じ字の主な意味を、辞典の語釈で並べます。
| 分野 | 意味(辞典の語釈の要約) | 出典 |
|---|---|---|
| 相撲 | 相手の膝の外側に自分の膝の内側をあて、横後ろにひねり倒す決まり手 | 大辞泉4 |
| 自動車 | 一方に回したハンドルをすばやく反対方向に回すこと | 大辞泉8 |
| 剣道 | 正面打ちと左右の横面打ちを連続して行う練習法 | 大辞泉3 |
| 映画 | カットバック。関連のある2つの場面を交互に挿入する方法 | 大辞泉7・日国⑪ |
| 相場 | 下落を続けていた価格が急上昇すること | 大辞泉9 |
| 言葉のやりとり | 批判に反論したり、質問にうまく答えたりすること | 大辞泉2 |
| 農業・園芸 | 田の土を細かく耕すこと/枝を途中から切り落とす剪定法 | 大辞泉5・6 |
| 柔道 | 相手が技を仕掛けてくるところを逆にとって倒す技 | 日国③ |
| ゴルフ・野球 | スイングで手首の向きを変える瞬間(辞典には無い) | Wikipedia曖昧さ回避 |
車の「切り返し」は、運転免許の試験でも使う言葉です。警察庁の技能試験の通達は、二種免許の鋭角コースを「3回以下の切り返しによって通過すること」と定め、操作不良や判断不良で切り返した場合は路上で10点、場内で5点を減点するとしています(出典:警察庁「運転免許技能試験実施基準について(通達)」令和4年3月4日)。
精選版日本国語大辞典で語全体の最も古い用例は日葡辞書(1603〜04年)の「切りかかってきた相手に切り返す」意味で、相撲の意味には1937年の『現代文化百科事典』が添えられています。辞典はこれらの意味を並べるだけで、相撲の切り返しと車や剣道の切り返しがどうつながるのかは書いていません。当サイトも、語源のつながりは確かめていません。
切り返しについてよくある質問
Q. 切り返しと外掛けはどう見分けますか
A. 相手の足に自分の足を掛けたかどうかで見分けます。協会の説明では、外掛けは自分の足を相手の足の外側から掛けて引く技で、相手が吊ろうとしたり投げを打とうとしてひざが伸びた瞬間に、できるだけ足首に近い位置に掛けるときれいに決まるとしています。切り返しは足を掛けず、自分のひざを相手のひざの外側に当てます。掛ける場所が足首に近いか、ひざ同士が触れているかも手がかりになります。
Q. 切り返しの読み方と英語表記は
A. 「きりかえし」と読みます。精選版日本国語大辞典には「きりがえし」とも読むとの注記がありますが、これは相撲に限らない語全体への注記です。協会の英語版の取組データはローマ字で kirikaeshi と表記しています。意味を訳した英語では、英語版WikipediaとJMdictが twisting backward knee trip としています。
Q. 切り返しを得意にした力士は誰ですか
A. 相撲レファレンスの幕内の記録(1927年〜2026年9月場所)では、舞の海の33番が最多で、若葉山21番、海乃山20番、初代若乃花19番が続きます。協会の集計(平成25年1月場所以降・全階級)では元十両の慶天海が11回で最多、現役の幕内では大関安青錦の6回が最も多く、藤青雲と琴栄峰が5回です。十両の記録(相撲レファレンス)では舞の海の17番に、大ノ浦・櫻國・大文字の13番が続きます。現役力士の地位は現役力士一覧で確認できます。
Q. 切り返しは柔道の何にあたりますか
A. Wikipediaと舞の海のインタビュー記事(nippon.com)は、柔道の小外刈りに相当する技だと書いています。どちらも、相手の膝の裏側に自分の膝を当てる技として紹介しています。辞典の柔道の「切り返し」は、相手の技を逆にとって倒す技という別の意味です。当サイトは柔道の規則までは取材していません。
Q. 切り返しは珍しい技ですか
A. 毎日見られる技ではありませんが、決まり手の中では中くらいの頻度です。協会の集計では192,672番のうち324回・27位です。相撲レファレンスの全階級の記録を当サイトが数えると、平成25年以降は最も少ない2019年で14番、最も多い2015年で31番で、年6場所なら1場所に2〜5番ほどです。令和8年9月場所は全段の2,222番のうち5番、幕内では2番でした。掛け手の中では外掛けに次いで2番目に多い技です。珍しい技の例は、手で内ももを払う内無双にまとめています。
Q. 切り返しで物言いがつくことはありますか
A. あります。2026年7月場所6日目の伯乃富士-豊昇龍は、軍配が豊昇龍に上がったあと物言いがつき、行司軍配差し違えで伯乃富士の切り返しの勝ちになりました。仕掛ける側も一緒に倒れ込む技なので、どちらが先に落ちたかが際どくなることがあります。土俵際で逆転する技と物言いの関係はうっちゃりで詳しく解説しています。
まとめ|切り返しは、膝を支点に相手を後ろへひねり倒す掛け手
切り返しとは、相手のひざの外側に自分のひざを当て、そこを支点に後ろへひねるように倒して勝つ掛け手です。
協会の集計では192,672番のうち324回・27位で、掛け手の中では外掛けに次ぐ2番目です。割合が0.17%と0.2%の2通りで出るのは、丸めの桁の違いです。外掛け・内掛け・河津掛けは相手の足に足を掛ける技で、切り返しは足を土俵につけたままひざを当てる点で分かれます。幕内では舞の海の33番が最多で、2020年代は安青錦・遠藤・藤青雲が続き、遠藤・安青錦・伯乃富士は横綱を切り返しで倒しました。車や剣道の「切り返し」は、同じ字を使う別の意味です。
決まり手の全体像は相撲の決まり手一覧【全82手+非技5】に、同じ掛け手は内掛けと足取りにまとめています。
協会の説明と取組の記録を読むかぎり、切り返しは自分から攻める技というより、相手が投げに来た瞬間の重さを借りて返す技で、だからこそ横綱の大きな投げに対して何度も決まってきたと当サイトは読んでいます。

