引っ掛け(ひっかけ)とは、突いてくるか差してくる相手の腕を両手で内と外から引っ掛け、体を開いて前に落とすか土俵の外へ飛び出させる相撲の決まり手です。日本相撲協会が定める決まり手八十二手のうち「特殊技」の1つで、同じく引いて勝つ引き落としとは腕の取り方が違います。協会の集計では、全段(幕内〜序ノ口)・平成25年1月場所〜令和8年9月場所千秋楽の192,672番のうち303回で、82手中28位です。2003年11月場所7日目に横綱武蔵丸が土佐ノ海に敗れ、現役最後の相撲になった一番も引っ掛けでした。
この記事でわかること
- 協会の定義と、「挟む・体を開く・前へ落とす」の3コマ図
- 引き落とし・叩き込み・素首落とし・とったり・小手投げとの違い(比較表と図)
- 192,672番で303回という数字の範囲と、相撲レファレンスの全期間909番
- 引っ掛けの多い力士と、幕内で多く敗れた力士
- 武蔵丸の最後の一番、千代の富士の53連勝中の一番、2026年の2番
- 辞書に載る「引っ掛け」の4つの意味と、相撲以外の使われ方
引っ掛けとは|相手の腕を両手で内と外から引っ掛け、体を開いて前へ落とす特殊技
引っ掛けは、相手の腕を両手で内と外から引っ掛け、体を開いて前に落とすか外へ飛び出させる特殊技です。
日本相撲協会の公式サイトは、引っ掛けを次のように説明しています。
相手が突いてくるか差してくるかしたとき、その腕を一方の手で内側から、もう一方の手で外側から引っ掛けるようにして体を開き、相手を前に落とすか土俵の外に飛び出させて勝ちます。
下の図は、この定義文を当サイトが3つの場面に分けたものです。腕を取る位置や体を開く向きは取組ごとに違い、図はその一例です。
協会の定義は「突くか差す相手」「両手で内と外」「前に落とすか外へ」の3点
協会の定義には、相手の動き・手の使い方・決着のかたちの3点がそろっています。
1点目は、相手が突いてくるか差してくるかしたときという条件です。2点目は、その腕を片方の手で内側から、もう片方の手で外側から引っ掛ける手の使い方で、体を開く動きも含まれます。3点目は決着のかたちで、相手を前に落としても、土俵の外へ飛び出させても、どちらも引っ掛けです。土俵の中で落ちたか外へ出たかでは決まり手が分かれない点が、送り出しと送り倒しのように内外で名前が変わる技との違いです。
辞書は「出てくる相手の手を引き、そのまま土俵外に出す技」と書く
国語辞典は、出てくる相手の手を引き、そのまま土俵の外に出す技と短く説明しています。
デジタル大辞泉は「引っ掛け」の3つ目の意味として「相撲のきまり手の一。出てくる相手の手を引き、そのまま土俵外に出す技。」と書いています(出典:コトバンク「引っ掛け」)。Wikipediaは「突き押しの攻防の中で、相手の腕を両手で抱え、体を開いて相手を前に倒すか土俵の外に出す技」と書いています(出典:Wikipedia「引っ掛け」)。読みはどれも「ひっかけ」で、協会は「引っ掛け」と表記しています。
分類は特殊技で、引き落とし・叩き込み・素首落としと同じ仲間
引っ掛けは特殊技に入り、同じ特殊技には引いたり叩いたりして落とす技が並んでいます。
協会の決まり手八十二手は、基本技・投げ手・掛け手・反り手・捻り手・特殊技の6つに分かれています。協会の特殊技の一覧では、引き落とし・引っ掛け・叩き込み・素首落としが続けて並んでいます。4つの説明と回数は次のとおりです。
| 技 | 協会の説明(原文の一部) | 順位 | 回数 |
|---|---|---|---|
| 引き落とし | 相手の腕を引いたり、肩を手前に引いたりして相手を自分の手前に引き倒して勝ちます | 7位 | 6,702 |
| 引っ掛け | その腕を一方の手で内側から、もう一方の手で外側から引っ掛けるようにして体を開き | 28位 | 303 |
| 叩き込み | 相手が低く出てきたとき、体を開きながら片手または両手で相手の肩、背中、腕などを叩いて落として勝ちます | 3位 | 15,881 |
| 素首落とし | 相手の首または後頭部を、手首または腕でたたき落として勝ちます | 43位 | 91 |
4つのうち、相手の腕を両手で内と外から挟むと説明されているのは引っ掛けだけです。
引っ掛けと引き落とし・叩き込みの違い|両手で挟んで前へ出すか、手前に引くか、叩くか
引き落としは手前に引き倒し、叩き込みは叩いて落とし、引っ掛けは腕を挟んで前へ出す技です。
協会の説明では、叩き込みと引っ掛けには「体を開」く動きが書かれ、引き落としには書かれていません。3つを分けるのは、どこをどう使うかという手の使い方です。見分けの順番を図にすると次のとおりです。協会は3つの見分け方を1か所にまとめて説明していないため、図は各決まり手の説明文を当サイトがつなげたものです。
引き落としは「手前に引き倒す」、引っ掛けは「腕を挟んで前に落とす」
引き落としは腕や肩を自分の手前に引き倒す技で、引っ掛けは腕を両手で挟んで前へ落とす技です。
協会は引き落としを「相手の腕を引いたり、肩を手前に引いたりして相手を自分の手前に引き倒して勝ちます。前まわしをつかんで引くこともあります。」と説明しています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 引き落とし」)。引き落としでは片手で腕を引いても、肩や前まわしを引いてもよく、引く先は自分の手前です。引っ掛けは、相手の腕を両手で内と外から引っ掛けたうえで体を開くと書かれています。引き落としの細かな決まり方は引き落としとはで、体を開いて肩口を引く技は肩透かしで解説しています。
「土俵の中なら引き落とし、外なら引っ掛け」は協会の定義と合わない
土俵の中で倒れたか外へ出たかで2つを分ける説明は、協会の定義文とは合いません。
協会の引っ掛けの定義は、決着を「相手を前に落とすか土俵の外に飛び出させて」と書いており、土俵の中で前に落ちた場合も引っ掛けに含めています。引き落としの定義にも、土俵の内外の条件は書かれていません。協会の説明どおりに読むと、2つを分けるのは手の使い方で、決着の場所ではありません。協会の集計では引き落としが6,702回、引っ掛けが303回で、引き落としはおよそ22倍の回数です。
叩き込みは、低く出てきた相手の肩や背中を叩いて落とす
叩き込みは、低く出てきた相手の肩・背中・腕を叩いて落とす技で、腕をつかんで引く技ではありません。
協会は叩き込みを「相手が低く出てきたとき、体を開きながら片手または両手で相手の肩、背中、腕などを叩いて落として勝ちます。」と説明しています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 叩き込み」)。体を開く点は引っ掛けと同じですが、相手の体を叩くか、腕を挟んで引っ掛けるかが違います。叩き込みは協会の集計で15,881回の3位で、引っ掛けのおよそ52倍です。首や後頭部を叩き落とせば、別の決まり手の素首落としになります。
引っ掛けととったり・小手投げの違い|ひねり倒す捻り手、抱え込んで投げる投げ手
とったりは片腕を抱えてひねり倒す捻り手、小手投げは差し手を抱え込んで投げる投げ手です。
腕を取って勝つ技は特殊技の外にもあります。協会の説明で並べると次のようになります。
| 技 | 分類 | 腕の取り方 | 決着のかたち | 順位・回数 |
|---|---|---|---|---|
| 引っ掛け | 特殊技 | 突くか差してきた腕を、片手は内側、片手は外側から引っ掛ける | 体を開き、前に落とすか土俵の外に飛び出させる | 28位・303 |
| とったり | 捻り手 | 相手の片腕を両手で抱え取る | 体を開いて手前にひねり倒す | 25位・379 |
| 小手投げ | 投げ手 | 相手の差し手を外側から抱え込む | 上から押さえつけるようにして投げる | 13位・3,203 |
| 上手出し投げ | 投げ手 | 上手まわしを取ったひじで相手の差し手を極める | 体を開き、押し出すように前に投げ倒す | 14位・2,475 |
4つとも相手の腕を使いますが、引っ掛けだけが投げもひねりもせず、相手を前へ出して決まる技です。
とったりは、片腕を両手で抱え取って手前にひねり倒す捻り手
とったりは、片腕を両手で抱え取り、体を開いて手前にひねり倒す技で、協会の分類は捻り手です。
協会はとったりを「突き押しの攻防や差し手争いのなかで、相手の片腕を両手で抱え取り、体を開いて手前にひねり倒して勝ちます!」と説明しています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 とったり」)。突き押しの中で両手で腕を取り、体を開く流れは引っ掛けと重なります。違いは最後の動きで、とったりは相手をひねって倒し、引っ掛けは相手を前に落とすか外へ飛び出させます。Wikipediaは引っ掛けを、小手投げやとったりと違って腕を極めずに手繰りの要領で引き落とすように打つ技と書いています。協会の集計ではとったりが379回、引っ掛けが303回で、回数は近い技です。
小手投げは差し手を外から抱え込んで投げ、上手出し投げはまわしを取って投げる
小手投げと上手出し投げはどちらも投げ手で、相手を投げて倒す点が引っ掛けと違います。
協会は小手投げを「相手の差し手を外側から抱え込み、上から押さえつけるようにして相手を投げて勝ちます。」と説明しています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 小手投げ」)。上手出し投げは「上手まわしを取ったひじで相手の差し手を極め、廻しを取っていない方の足を引いて体を開き、押し出すように相手を前に投げ倒して勝つ」技です(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手 上手出し投げ」)。上手出し投げも体を開いて相手を前へ出しますが、まわしを取って投げる点が、まわしを取らずに腕を引っ掛ける引っ掛けとの違いです。
引っ掛けはどれくらい出ているのか|協会の集計では192,672番で303回
協会の集計では、全段・平成25年1月場所〜令和8年9月場所千秋楽の192,672番で、引っ掛けは303回です。
協会の決まり手ランキングには「期間:平成二十五年一月場所~令和八年九月場所千秋楽」「取組数:192,672番を元に表示しています」と書かれています(出典:日本相撲協会「決まり手八十二手」)。割合は0.2%で、計算するとおよそ636番に1番です。協会の集計は幕内だけでなく、十両・幕下・三段目・序二段・序ノ口までを合わせた数です。
82手中28位で、引き落としの約22分の1・叩き込みの約52分の1
引っ掛けは82手中28位で、同じ特殊技の引き落としの約22分の1、叩き込みの約52分の1の回数です。
協会の数字を、似た技と並べると次のとおりです。
| 順位 | 技 | 分類 | 回数 | 引っ掛けの何倍か |
|---|---|---|---|---|
| 3位 | 叩き込み | 特殊技 | 15,881 | 約52倍 |
| 7位 | 引き落とし | 特殊技 | 6,702 | 約22倍 |
| 13位 | 小手投げ | 投げ手 | 3,203 | 約11倍 |
| 25位 | とったり | 捻り手 | 379 | 約1.3倍 |
| 28位 | 引っ掛け | 特殊技 | 303 | ― |
| 43位 | 素首落とし | 特殊技 | 91 | 約0.3倍 |
相撲レファレンスの全期間では909番で、序二段と三段目が多い
相撲レファレンスの記録を当サイトが数えると、引っ掛けは全段・全期間で909番、幕内では114番です。
相撲の記録データベース「相撲レファレンス」の取組検索で、決まり手を引っ掛けに絞って段ごとに数えた結果が次の表です(出典:相撲レファレンス「取組検索」引っ掛け・全段)。協会の集計とは期間も数え方も違うので、2つの数字は混ぜずに読んでください。
| 段 | 幕内 | 十両 | 幕下 | 三段目 | 序二段 | 序ノ口 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 番数 | 114 | 83 | 164 | 260 | 261 | 27 | 909 |
相撲レファレンスに残る取組は、古い場所ほど幕下以下の記録が少なくなります。段ごとの番数は、各段の取組の多さだけでなく、記録が残っている期間の違いも含んだ数字です。
幕内では昭和26番・平成60番・令和28番で、令和に入ってからが多め
相撲レファレンスの幕内の114番を元号で分けると、昭和26番・平成60番・令和28番です。
相撲レファレンスで最も古い幕内の引っ掛けは昭和24年(1949年)1月場所3日目の神風-廣瀬川で、昭和の26番はその後の40年ほどの数です。平成の約30年で60番だったのに対し、令和は2019年5月場所から2026年9月場所までの7年半ほどで28番あり、令和に入ってからは出る間隔が短くなっています。令和2年1月場所は幕内で4番(7日目の佐田の海、10日目の照強と北勝富士、14日目の宝富士)、令和2年9月場所は3番(3日目の翔猿、5日目の御嶽海、千秋楽の松鳳山)が引っ掛けで勝ちました(出典:相撲レファレンス「取組検索」引っ掛け・幕内2015〜2026年)。2020年9月場所に関脇で引っ掛けを決めた力士は御嶽海です。
珍しいのは、突くか差して出てくる相手がいて初めて使える技だから
引っ掛けは、相手が突くか差して出てくる場面でしか使えないと協会の定義が条件を付けている技です。
協会の定義は「相手が突いてくるか差してくるかしたとき」と、相手の動きを先に書いています。自分から攻めて決める押し出しや寄り切りと違い、相手の腕が伸びてこなければ形になりません。さらに、腕を引くだけで相手が前に落ちるか外へ飛ぶほどの勢いが相手に必要です。協会の説明では、引き落としは腕・肩・前まわしのどれを引いてもよく、叩き込みは片手でも両手でもよいとされているのに対し、引っ掛けは両手で内と外から腕を取ると条件が細かく、協会の集計でも回数はおよそ636番に1番にとどまります。これは協会の定義文と回数から当サイトが読み取った理由で、協会が珍しい理由を説明した文はありません。
引っ掛けの多い力士|協会の集計では佐田の海・光源治・宇良・安芸錦の6回が最多
協会の集計では、佐田の海・光源治・宇良・安芸錦の4人が引っ掛け6回で最も多い力士です。
協会の一覧は全段の数で、序二段や三段目の力士も並ぶ
協会の「引っ掛けの多い力士」は全段の数を集めた一覧で、関取だけでなく序二段や三段目の力士も入っています。
協会の引っ掛けのページは、同じ集計期間の多い力士を令和8年9月場所の番付で表示しています。上位は次のとおりです。
| 力士 | 令和8年9月場所の番付(引退は最高位) | 回数 |
|---|---|---|
| 佐田の海 | 東十両五枚目 | 6 |
| 光源治 | 元幕下五十四枚目(令和3年3月場所引退) | 6 |
| 宇良 | 東前頭九枚目 | 6 |
| 安芸錦 | 西序二段十六枚目 | 6 |
| 琴全翔 | 元三段目三十九枚目(令和3年5月場所引退) | 5 |
| 一木 | 元幕下六枚目(令和4年11月場所引退) | 5 |
| 魁清城 | 西幕下二十三枚目 | 5 |
| 朝氣龍 | 東三段目四十四枚目 | 5 |
協会の集計期間(平成25年1月場所〜令和8年9月場所、およそ14年)で最も多い力士でも6回です。宇良は居反りや伝え反りなど珍しい技でも知られる力士で、詳しくは宇良とはにまとめています。
相撲レファレンスの幕内全期間では、旭鷲山と日馬富士の5番が最多
相撲レファレンスの幕内全期間では、旭鷲山と日馬富士が引っ掛け5番で最も多く、旭道山と安美錦が4番で続きます。
相撲レファレンスの取組検索を幕内・勝った力士ごとにまとめると、旭鷲山5番、日馬富士5番、旭道山4番、安美錦4番、佐田の海・宝富士・明生3番の順です(出典:相撲レファレンス「取組検索」引っ掛け・幕内・力士別)。日馬富士の5番には、安馬の名だった平成18年1月場所・3月場所・平成19年7月場所の3番が含まれます。日馬富士は前頭・関脇・大関・横綱の4つの地位で引っ掛けを決めており、平成28年5月場所6日目には横綱として嘉風を破っています。
幕内で引っ掛けに多く敗れたのは碧山の7番
相撲レファレンスの幕内の記録では、引っ掛けで最も多く敗れたのは碧山の7番で、玉鷲の4番が続きます。
碧山は平成25年1月場所の安美錦戦から令和6年1月場所の宝富士戦まで、幕内で7回引っ掛けに敗れています。令和2年1月場所では、7日目に佐田の海、10日目に照強と、同じ場所で2回敗れました。横綱・大関では、武蔵丸が3回、日馬富士・霧島(平成の大関)・貴ノ浪・武双山・魁皇・栃東・稀勢の里がそれぞれ1回、引っ掛けに敗れています。
引っ掛けで決まった横綱の一番|武蔵丸の最後の相撲と、千代の富士の53連勝の途中の一番
横綱がからんだ引っ掛けには、2003年の武蔵丸の最後の相撲と、1988年の千代の富士の一番があります。
2003年11月場所7日目、土佐ノ海の引っ掛けが横綱武蔵丸の最後の相撲になった
2003年11月場所7日目、前頭2枚目の土佐ノ海が横綱武蔵丸を引っ掛けで破り、これが武蔵丸の最後の相撲になりました。
相撲レファレンスの記録では、平成15年(2003年)11月場所7日目、西前頭2枚目の土佐ノ海(5勝2敗)が西横綱の武蔵丸を引っ掛けで破っています(出典:相撲レファレンス「取組検索」引っ掛け・幕内)。Wikipediaによると、武蔵丸はこの場所に進退を懸けて臨んでおり、土佐ノ海戦が現役最後の相撲となりました。その夜に師匠の武蔵川親方と話し合い、「これ以上、横綱としての相撲が千秋楽まで取れない」として引退を決めたと書かれています(出典:Wikipedia「武蔵丸光洋」)。土佐ノ海は平成12年(2000年)7月場所2日目にも武蔵丸を引っ掛けで破っており、平成14年(2002年)1月場所3日目には旭鷲山も武蔵丸に引っ掛けで勝っています。同じ平成15年11月場所では、5日目に横綱朝青龍が安美錦を引っ掛けで破っていました。歴代の横綱は横綱一覧で確かめられます。
1988年11月場所2日目、千代の富士が53連勝の途中に引っ掛けで勝った
1988年11月場所2日目、横綱千代の富士は琴富士を引っ掛けで破っており、53連勝の途中の1勝でした。
相撲レファレンスの記録では、昭和63年(1988年)11月場所2日目、東横綱の千代の富士が東前頭4枚目の琴富士を引っ掛けで破っています。Wikipediaは、千代の富士が1988年5月場所7日目から11月場所14日目まで53連勝し、11月場所千秋楽に大乃国に敗れて連勝が止まったと書いています(出典:Wikipedia「千代の富士貢」)。日付を突き合わせると、琴富士戦はこの連勝の中の1番です。相撲レファレンスの幕内の記録で、横綱が引っ掛けで勝った一番は、この千代の富士、2003年の朝青龍、2016年の日馬富士の3番です。
2026年は7月場所千秋楽の美ノ海と、9月場所2日目の豪ノ山が決めた
2026年の幕内では、7月場所千秋楽に美ノ海が隆の勝を、9月場所2日目に豪ノ山が大栄翔を引っ掛けで破りました。
相撲レファレンスの記録では、令和8年(2026年)7月場所千秋楽に西前頭2枚目の美ノ海が西前頭筆頭の隆の勝を、9月場所2日目に東前頭3枚目の豪ノ山が西小結の大栄翔を、それぞれ引っ掛けで破っています。豪ノ山は令和7年(2025年)7月場所4日目にも尊富士を引っ掛けで破っています。全段で見ると、2026年1月〜9月場所の5場所で引っ掛けは13番あり、5月場所千秋楽には十両の北の若が栃大海を破っています(出典:相撲レファレンス「取組検索」引っ掛け・2026年・全段)。
相撲以外の「引っ掛け」|辞書では4つの意味のうち3つ目が相撲
国語辞典の「引っ掛け」には4つの意味があり、相撲の決まり手はその3つ目に載っています。
デジタル大辞泉が載せる「引っ掛け」の意味は次の4つです(出典:コトバンク「引っ掛け」)。
| 番号 | デジタル大辞泉の説明(原文) | 使われる場面の例 |
|---|---|---|
| 1 | ものに何かを掛けること。また、そのためのもの。 | フック・引っ掛け収納 |
| 2 | 「引っ掛け帯」「引っ掛け結び」の略。 | 帯の結び方 |
| 3 | 相撲のきまり手の一。出てくる相手の手を引き、そのまま土俵外に出す技。 | 相撲の決まり手 |
| 4 | わなを仕組んで人をだますこと。 | 引っ掛け問題 |
2026年10月17日に当サイトがGoogleで「引っ掛け」を検索したところ、上位8件のうち相撲のページは日本相撲協会の決まり手ページ1件で、ほかは通販のフック、辞書、ひっかけクイズのページでした。この検索結果では1つ目と4つ目の意味のページが多く、相撲の決まり手を調べるときは「引っ掛け 相撲」と語を足すと協会や解説のページが並びます。辞書の4つの意味がどの順で生まれたか、相撲の決まり手がほかの意味の元になったかを示す資料は、今回の取材では見つかっていません。
引っ掛けについてよくある質問
Q. 相手の腕を引っ張るのは反則ではないのですか
A. 反則ではありません。引っ掛けは協会が定める決まり手八十二手の1つです。協会の大相撲クイズNo.711が紹介する「審判規則 禁手反則」の8項目(握り拳で殴る・頭髪をつかむ・急所を突く・両耳を同時に張る・前立褌をつかむ・のどをつかむ・胸や腹を蹴る・指を折り返す)に、相手の腕をつかんで引くことは入っていません(出典:日本相撲協会 大相撲クイズNo.711)。ただし、一指または二指を折り返すことは禁手です。
Q. 「引っ掛け」と「ひっかけ」、どちらの書き方が正しいですか
A. 協会の決まり手八十二手では「引っ掛け」と書き、読みを「ひっかけ」としています。デジタル大辞泉は見出しを「ひっ‐かけ【引っ掛け/引っ懸け】」とし、漢字の書き方を2通り載せています。相撲レファレンスも「引っ掛け」と表記しています。
Q. 横綱や大関が引っ掛けで負けたことはありますか
A. あります。相撲レファレンスの幕内の記録では、横綱武蔵丸が平成12年7月場所・平成14年1月場所・平成15年11月場所の3回、横綱日馬富士が平成27年5月場所4日目に佐田の海に敗れています。大関では、平成24年9月場所9日目に稀勢の里が豊真将に、平成18年3月場所初日に魁皇が安馬(のちの日馬富士)に敗れています。大関の一覧は大関一覧にまとめています。
Q. 最近の場所でも引っ掛けは出ていますか
A. 出ています。相撲レファレンスの記録を当サイトが数えると、2026年(令和8年)1月〜9月場所の5場所で全段13番、そのうち幕内は7月場所千秋楽の美ノ海-隆の勝と、9月場所2日目の豪ノ山-大栄翔の2番でした。2025年(令和7年)は6場所で全段18番、幕内は7月場所4日目の豪ノ山-尊富士の1番です。
Q. 引っ掛けと叩き込みが同時に起きたように見えたら、どちらになりますか
A. 協会の定義では、腕を両手で内と外から挟んで引けば引っ掛け、相手の肩・背中・腕などを叩いて落とせば叩き込みです。記録される決まり手は協会が決めるもので、当サイトは個々の取組の判定を代わりに決めることはできません。判定の考え方は、協会の各決まり手ページの説明文が手がかりになります。
Q. 引っ掛けの多い現役力士は誰ですか
A. 協会の一覧(全段・平成25年1月場所〜令和8年9月場所千秋楽)では、現役は佐田の海・宇良・安芸錦の6回、魁清城・朝氣龍の5回です。同じ一覧の光源治(6回)は令和3年3月場所、琴全翔(5回)は令和3年5月場所、一木(5回)は令和4年11月場所で引退しています。引退した力士は引退力士の一覧でも確かめられます。
まとめ|引っ掛けは、腕を両手で内と外から挟んで前へ出す、82手中28位の特殊技
引っ掛けは、突くか差してくる相手の腕を両手で内と外から引っ掛け、前に落とすか外へ出す特殊技です。
協会の集計(全段・平成25年1月場所〜令和8年9月場所千秋楽の192,672番)では303回で82手中28位、引き落としの約22分の1です。引き落としは手前に引き倒し、叩き込みは叩いて落とし、とったりはひねり倒し、小手投げは投げる技で、腕を両手で挟んで前へ出すのが引っ掛けです。土俵の中で前に落ちても外へ飛び出しても引っ掛けで、内外では名前が変わりません。2003年の武蔵丸の最後の相撲や、1988年の千代の富士の53連勝の途中の一番も、記録上の決まり手は引っ掛けでした。
決まり手の全体像は相撲の決まり手一覧【全82手+非技5】に、同じ特殊技で後ろから押し出す技は送り出しにまとめています。
引っ掛けは、協会の集計でおよそ636番に1番しか記録されない決まり手です。取組を見るときは、突いて出てきた相手の腕を両手で挟んだかどうかと、そのあと相手を手前に引いたのか前へ送ったのかに注目すると、引き落としとの違いを見分けられます。

