日本の伝統的なスポーツは、日本武道協議会が「武道」と定める柔道・剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道の9種と、蹴鞠や流鏑馬のように神社でいまも奉納されている古式の競技に分けて見ると整理できます。なかでも相撲は、武道9種の1つであり、日本相撲協会が「伝統あるスポーツ」と書きながら神事を起源とする、代表的な存在です。この記事では、武道9種の一覧、武道以外の伝統競技、相撲がスポーツと神事の両方の顔を持つ理由を、公式の資料をもとに整理します。
📖 この記事でわかること
- 「日本の伝統的なスポーツ」「日本の伝統スポーツ」と呼ばれるものの範囲
- 日本武道協議会が定める武道9種の一覧と、それぞれの統括団体
- 武道以外の伝統的な競技(蹴鞠・流鏑馬)と、いま見られる場所と日
- 相撲はスポーツなのか神事なのか、日本相撲協会の2つの表現
- 中学校の武道必修や、空手とオリンピックの関係
日本の伝統的なスポーツとは?代表は相撲と武道9種
日本の伝統的なスポーツは、武道9種と蹴鞠・流鏑馬などの古式の競技が中心で、代表格は相撲です。
「日本の伝統スポーツ」「日本の伝統的スポーツ」の範囲を考えるとき、種目の名前を挙げて文章で定めている資料の1つが、日本武道協議会の「武道の定義」です。協議会は平成26年2月1日に定めた定義で、武道を次のように説明しています。
武道は、武士道の伝統に由来する日本で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で、(中略)柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道の総称を言う。
この記事では、日本の伝統的なスポーツを次の2層で扱います。
- 武道9種:日本武道協議会が定義で名前を挙げている9つ。相撲もここに入ります
- 古式の競技:武道の定義には入らないものの、奈良時代の伝来や鎌倉時代の始行から形を受け継ぎ、神社の祭事として奉納が続く蹴鞠や流鏑馬
武道の定義では、相撲は武道と別枠の伝統スポーツではなく、武道9種の1つです。
日本の伝統的なスポーツ一覧【武道9種】
武道9種は、柔道・剣道・弓道・相撲・空手道・合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道の9つです。
日本武道協議会は昭和52年4月23日に設立され、9種それぞれの全国団体と日本武道館の10団体で構成されています。表の「統括団体」は、その加盟団体の名前です(出典:日本武道館「日本武道協議会」)。
| 種目 | 読み | 統括団体(日本武道協議会の加盟団体) | 文部科学省の資料で名指し | 東京2020の実施競技 |
|---|---|---|---|---|
| 柔道 | じゅうどう | 全日本柔道連盟 | あり | 実施 |
| 剣道 | けんどう | 全日本剣道連盟 | あり | なし |
| 弓道 | きゅうどう | 全日本弓道連盟 | — | なし |
| 相撲 | すもう | 日本相撲連盟 | あり | なし |
| 空手道 | からてどう | 全日本空手道連盟 | — | 実施(LA2028の追加競技には入らず) |
| 合気道 | あいきどう | 合気会 | — | なし |
| 少林寺拳法 | しょうりんじけんぽう | 少林寺拳法連盟 | — | なし |
| なぎなた | なぎなた | 全日本なぎなた連盟 | — | なし |
| 銃剣道 | じゅうけんどう | 全日本銃剣道連盟 | — | なし |
「文部科学省の資料で名指し」は、中学校の武道について文部科学省が「柔道・剣道・相撲など」と書いている3種に「あり」を付けたもので、ほかの6種を授業で扱わないという意味ではありません。出典:文部科学省「武道」/JOC「東京2020 空手」(競技一覧を含む)/日本経済新聞(2023年10月16日)
表の相撲の統括団体は、アマチュア相撲の日本相撲連盟です。本場所を開く大相撲は、公益財団法人日本相撲協会が運営していて、団体が分かれています。
柔道|組んで投げ技と固め技で競う
柔道は、相手と組み合って投げ技や固め技で一本を競う武道で、9種のうちオリンピックで実施されている種目です。
JOCが公開している東京2020の競技一覧に、柔道は実施競技として入っています。武道9種のうち、この一覧にあるのは柔道と空手道の2つです。
剣道|防具を着けて竹刀で打ち合う
剣道は、防具を着けて竹刀を持ち、面・小手・胴などへの打突で勝敗を決める武道で、中学校の武道でも名前が挙がります。
弓道|弓を引いて的を射る
弓道は、和弓を引いて的を射る武道で、全日本弓道連盟が日本武道協議会に加盟しています。
空手道|東京2020で実施、LA2028の追加競技には入らず
空手道は、突き・蹴りなどの技を使う武道で、東京2020オリンピックでは実施競技の1つになりました。
ただし、2023年10月16日のIOC総会で承認されたロサンゼルス2028大会の追加5競技(野球・ソフトボール、フラッグフットボール、クリケット、ラクロス、スカッシュ)に、空手は入っていません(日本経済新聞)。「空手は今もオリンピック種目」と書く説明は、この点で古い情報です。
合気道・少林寺拳法・なぎなた・銃剣道
残る4種も、日本武道協議会の定義に名前が並ぶ武道で、それぞれ全国団体が協議会に加盟しています。
合気道は合気会、少林寺拳法は少林寺拳法連盟、なぎなたは全日本なぎなた連盟、銃剣道は全日本銃剣道連盟が加盟団体です。
武道以外の伝統的な競技|蹴鞠と流鏑馬
武道以外では、宮中で愛された蹴鞠と、馬上から的を射る流鏑馬が、いまも神社で奉納されています。
どちらも日本武道協議会の武道9種には入りませんが、形を受け継いで毎年決まった日に行われていて、実際に見に行ける伝統競技です。
| 競技 | どんなものか | いま見られる場所と日 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 蹴鞠(けまり) | 奈良時代に中国から伝わり、宮中でも愛された鞠を蹴る行事。6名から8名が一座になって行う | 下鴨神社(京都)で毎年1月4日に奉納 | 下鴨神社「蹴鞠」 |
| 流鏑馬(やぶさめ) | 走る馬の上から的を射る神事。鶴岡八幡宮では文治3年(1187)に放生会とともに始行された | 鶴岡八幡宮(鎌倉)の例大祭で9月16日に流鏑馬神事 | 鶴岡八幡宮「祭事」 |
鶴岡八幡宮によると、文治3年(1187)8月15日に放生会と流鏑馬が行われたことが、同宮の例大祭の始まりです。蹴鞠を奉納する下鴨神社は、蹴鞠を「宮中でも愛された伝統行事」と紹介しています。勝ち負けを競うスポーツというより、決まった作法を神前で披露する行事として続いている点が、武道9種との違いです。
相撲はスポーツ?神事?|伝統的なスポーツの代表とされる理由
相撲は、日本相撲協会が「伝統あるスポーツ」と書く一方で神事を起源とすると定めていて、両方の顔を持っています。
日本相撲協会は、公式サイトの「相撲の歴史」で次のように書いています。
相撲は人間の闘争本能の発露である力くらべや取っ組み合いから発生した伝統あるスポーツである。
一方で、協会の組織のページでは、協会の目的を「太古より五穀豊穣を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統」を守り伝えることだと書いています(日本相撲協会「協会について」)。スポーツか神事かの二択ではなく、神事から始まり、競技として受け継がれてきたというのが協会自身の説明です。
相撲の歩み|神話から江戸の勧進相撲まで
日本相撲協会の説明をたどると、相撲は神話の力くらべから儀式、宮廷行事、武士の訓練を経て、江戸時代に興行になりました。
相撲の歩み(日本相撲協会「相撲の歴史」より)
① 神話
古事記(712年)・日本書紀(720年)の力くらべ、宿禰と蹶速の天覧勝負
② 収穫を占う儀式
その年の農作物の収穫を占う祭りの儀式として毎年行われる
③ 宮廷行事
宮廷の行事となり300年続く
④ 武士の訓練
織田信長が元亀・天正年間(1570〜92年)に安土城などで上覧相撲
⑤ 江戸の勧進相撲
全国で勧進相撲が行われ、江戸時代中期に定期的な興行へ
協会によると、相撲の起源には古事記(712年)や日本書紀(720年)にある力くらべの神話や、宿禰(すくね)・蹶速(けはや)の天覧勝負の伝説が挙げられます。その後、その年の農作物の収穫を占う祭りの儀式として毎年行われ、日本相撲協会によると宮廷の行事となって300年続きました。武家の時代には武士の訓練として取り入れられ、織田信長は元亀・天正年間(1570〜92年)に近江の安土城などで各地から力士を集めて上覧相撲を催しています。江戸時代には全国で勧進相撲が行われるようになり、江戸時代中期には定期的に興行されるようになりました。
「国技」と呼ばれることについて
相撲を日本の国技と定めた法律はなく、国技の呼び名は1909年に完成した常設館が「国技館」と名付けられたことと結びついています。
日本相撲協会は目的の中で相撲を「我が国固有の国技」と書いていますが、法令上の根拠はありません。国技と呼ばれるようになった経緯や、相撲以外の「国技」については、日本の国技は相撲?法的根拠と「国技」と呼ばれる本当の理由で詳しく解説しています。
武道9種に共通する特徴|礼法と人間形成
武道9種は、日本武道協議会の定義で心技体を鍛えて礼節を重んじる「人間形成の道」とされ、中学校では武道が必修です。
日本武道協議会の武道の定義は、武道を「心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、人間形成の道」と位置づけています。蹴鞠や流鏑馬はこの定義の対象外で、神社の祭事として受け継がれている点で成り立ちが異なります。
「武道」という言葉そのものも、昔からいまの意味で使われていたわけではありません。日本大百科全書(コトバンク)によると、近世の「武道」は倫理思想を指す語で、剣や槍の技としての武術・武芸とは区別されていました。いまのように技を含む意味で「武道」の語が使われ出すのは、明治20年代からです。
学校教育にも組み込まれています。文部科学省は平成20年3月28日告示の中学校学習指導要領で、保健体育の武道を必修とし、扱う武道を「柔道・剣道・相撲など」と示しました(文部科学省)。日本武道館によると、この武道必修は平成24年度から完全実施されています(日本武道館「学校武道」)。
よくある質問
Q. 伝統的なスポーツと武道は同じ意味ですか?
A. 同じではありません。武道は日本武道協議会が柔道・剣道・相撲など9種を名指しした総称です。蹴鞠や流鏑馬はこの9種に入りませんが、神社の祭事として奉納が続く伝統的な競技なので、伝統的なスポーツを調べるときは武道より広い範囲で見る必要があります。
Q. 相撲は武道に入りますか?
A. 入ります。日本武道協議会が平成26年に定めた「武道の定義」で、相撲は柔道・剣道・弓道などと並ぶ9種の1つです。ただし協議会の加盟団体に名前があるのはアマチュア相撲の日本相撲連盟で、大相撲を運営する日本相撲協会は加盟団体の一覧に入っていません。
Q. 相撲が国技だと法律で決まっていますか?
A. 決まっていません。国技と定めた法令はなく、呼び名は1909年の常設館が「国技館」と名付けられたことと結びついています。経緯は日本の国技は相撲?で解説しています。
Q. 中学校で習う武道は何ですか?
A. 文部科学省は中学校の保健体育で武道を必修とし、扱う武道を「柔道・剣道・相撲など」と示しています。平成20年3月に告示され、平成24年度から完全実施されました。デジタル大辞泉によると、地域や学校の実態に応じてなぎなたや弓道などが採用されることもあります。
Q. 武道でオリンピックの種目になっているものはありますか?
A. 武道9種のうち東京2020大会で実施されたのは柔道と空手道の2つです。ただし空手は、2023年10月のIOC総会で承認されたロサンゼルス2028大会の追加5競技には入っていません。剣道・弓道・相撲などは東京2020の実施競技にありません。
Q. 蹴鞠や流鏑馬はどこで見られますか?
A. 蹴鞠は京都の下鴨神社で毎年1月4日に奉納されています。流鏑馬は鎌倉の鶴岡八幡宮で、例大祭の9月16日に流鏑馬神事として行われます。日程は各神社の案内で確かめてから出かけてください。
まとめ
日本の伝統的なスポーツは武道9種と古式の競技に分けて見るとわかりやすく、その代表が相撲です。
- 日本の伝統的なスポーツは、日本武道協議会が定める武道9種と、蹴鞠・流鏑馬などの古式の競技に分けると整理できます
- 相撲は武道9種の1つで、日本相撲協会は「伝統あるスポーツ」と書きながら、神事を起源とすると定めています
- 武道9種の定義は礼節と人間形成を重んじる考え方を示していて、中学校では「柔道・剣道・相撲など」の武道が必修です
相撲のルールや歴史をもっと知りたい方は相撲とは?ルール・歴史・魅力をわかりやすく解説、本場所の取組や番付の仕組みは大相撲の仕組み|取組・番付・ルール、相撲とオリンピックの関係は相撲はオリンピック競技になるのかもあわせてご覧ください。
神前で五穀豊穣を祈った力くらべが、宮廷の行事になり、武士の鍛錬になり、いまは土俵の上で毎場所の勝負として続いています。武道9種はそれぞれの全国団体が、蹴鞠と流鏑馬は下鴨神社と鶴岡八幡宮の祭事が、その形をいまに伝えています。

