相撲案内所(すもうあんないしょ)とは、大相撲の本場所で枡席のチケット手配から当日の座席案内、弁当やお土産の用意までを引き受ける、日本相撲協会公認の店です。通称は「お茶屋」「相撲茶屋」。両国国技館には一番から二十番まで20軒が並び、大阪・名古屋にもそれぞれの案内所があります。この記事では、案内所が何をしてくれるのか、いくらかかるのか、一見さんでも使えるのか、全国にどの店があるのかを、公式サイトの一次情報で確かめながら解説します。
📖 この記事でわかること
- 相撲案内所・お茶屋・相撲茶屋という3つの呼び名の関係
- 「出物(でもの)」と呼ばれる飲食・お土産セットの中身と、料金が何に対して支払われているか
- 一見さんでも使えるのか、チケットだけ・お土産だけを頼めるのか
- 東京20軒の番号と屋号、大阪・名古屋・福岡それぞれの体制
- 江戸の桟敷方から相撲案内所へ至る、300年近い歴史
相撲案内所(お茶屋・相撲茶屋)とは?呼び名と役割
相撲案内所とは、本場所で枡席のチケットと当日のもてなしを一括で引き受ける、協会公認の店のことです。
正式名称が「相撲案内所」、江戸から親しまれてきた通称が「お茶屋」「相撲茶屋」で、三つとも同じものを指します。「大相撲案内所」と名乗る店もありますが、これも同じです。呼び名が複数あるのは、1957年(昭和32年)の制度改革で「相撲茶屋」から「相撲案内所」へ改称された経緯によるもので、改称後も通称のほうが日常的に使われ続けてきました。
案内所は単なるチケット窓口ではありません。国技館サービス株式会社の公式サイトによれば、案内所を通してチケットを購入した観客は、一般入口ではなく専用の「相撲案内所入り口」から入場でき、たっつけ袴姿の係が席まで案内します。館内の売店に並んで取組を見逃す心配がなく、飲み物も食事も席まで届く——観戦の一日そのものを裏方として支えるのが、案内所の役割です。
出方(でかた)・若い衆とは?呼出との違い
出方とは、観客を席へ案内し、飲食やお土産を席まで届ける案内所の従業員のことです。土俵上で働く「呼出」とは別の職掌です。
大相撲案内所 本家(大阪)の公式サイトによれば、案内所で働く男性従業員は年齢を問わず「若い衆(わかいしゅ)」と呼ばれ、昔ながらの立付袴(たっつけばかま)を着て客席をまわります。一方の呼出は日本相撲協会の協会員で、力士を土俵へ呼び上げ、土俵を整え、太鼓を打つ役目です。同じ会場にいて似た装束に見えても、所属も仕事もまったく違います。初めての観戦でこの二つを取り違える人は多いので、ここで区別を押さえておくと会場での会話が通じやすくなります。
案内所は何をしてくれる?「出物」の中身と料金の内訳
案内所が提供するのは、座席案内・飲食・お土産・取組表の受け取りまでを含んだ一日分のもてなしです。
中心にあるのが飲食とお土産のセットで、現場ではこれを「出物(でもの)」と呼びます。本家の公式サイトには、入場券とは別に「出物引換券」を当日持参しなければ食事と土産を受け取れない、という注意書きがあります。券が二枚ある——これは案内所を初めて使う人がつまずきやすい点です。
| 受けられるもの | 内容 |
|---|---|
| 専用入口 | 一般入口ではなく相撲案内所入り口から入場できる |
| 座席案内 | たっつけ袴姿の出方が枡席まで案内する |
| 飲食(出物) | 弁当・湯茶に加え、追加の飲み物や軽食を席まで届ける |
| お土産(出物) | 案内所オリジナルの菓子・記念品など。東京場所では年3回、新製品が加わる |
| 取組表 | その日の取組表を席で受け取れる |
| 受付 | 会場の案内所窓口で受付をしてから席へ向かう |
料金は何に払っているのか
案内所経由の料金は、入場券の代金だけでなく「席+出物+人の手」の三つを合わせた総額です。
内訳を分けると理解しやすくなります。第一に枡席そのものの代金。第二に弁当・飲み物・お土産といった出物の代金。第三に、専用入口からの入場、席までの案内、席への配膳という人手のぶんです。「案内所は高い」と言われるのは券面価格と比べているからで、実際には食事と土産と接客が最初から束になっています。逆に言えば、土産が不要な人には割高に感じられる仕組みでもあります。
具体的な金額を見てみます。東京場所については、国技館サービスが令和8年九月場所のお土産セット引換券を単体で販売しており、価格が公表されています。名古屋場所については、公認案内所の「寿」と「かね秀」が席種ごとのセット料金を公開しています。
| 東京場所・お土産セット引換券(令和8年九月場所) | 価格(税込) |
|---|---|
| 相撲セット | 5,110円 |
| 梅セット | 7,700円 |
| 竹セット | 10,030円 |
| 松セット | 12,570円 |
| 横綱セット | 14,990円 |
| 極みセット | 22,550円 |
| ふたりでほろ酔い満足セット | 33,050円 |
お土産セットだけでも5,000円台から3万円台まで幅があります。ここに枡席の代金が加わるため、案内所経由の総額は席の種類とセットの等級で大きく変わります。
| 名古屋場所・案内所のセット料金(令和8年七月場所) | 平日 | 土日祝 |
|---|---|---|
| 溜席(寿) | 32,000円 | 35,000円 |
| マス席・1枡最大4名(寿) | 82,000円〜 | 98,400円〜 |
| イス席(寿) | 15,000円〜 | 17,500円〜 |
| 4人マスS席・お食事セット(かね秀) | 88,000円〜 | — |
| 4人マスA席・梅セット(かね秀) | 108,000円〜 | — |
マス席は1枡を4人で使う単位のため、8万円台という数字も1人あたりに直すと2万円前後になります。金額の大きさに驚く前に、何人で入る席なのかを確かめてください。座席そのものの種類と見え方については、相撲の座席とは?種類・値段・見え方で詳しく解説しています。
なお、案内をしてくれた出方に心付け(ご祝儀)を渡す作法が古くから伝わっており、現場では「骨折り」とも呼ばれます。強制ではありませんが、相場や渡し方に迷う方は相撲のお茶屋と心付けとは?相場・渡し方・マナーをご覧ください。
相撲案内所でチケットを買う方法と当日の流れ
案内所のチケットは、各案内所の公式サイトか電話で予約し、当日は会場の案内所窓口で受付をしてから席へ向かいます。
問い合わせ先を間違えないことが大切です。東京場所は国技館サービス株式会社が20軒すべてを運営しているため、同社のサイトか代表電話(03-3625-2111)が窓口になります。大阪・名古屋は各案内所が独立して受け付けているので、行きたい場所の案内所のサイトを直接見るのが確実です。個別の店にいきなり電話をかけて戸惑ったという声は少なくありません。まずは公式サイトを確認してください。購入方法全体の比較は大相撲チケットの買い方完全ガイド、本場所の日程や会場は大相撲の場所とチケット完全ガイドで解説しています。
チケットだけ、お土産だけを頼めるのか
チケットを別のルートで買った人が、案内所の飲食・お土産だけを注文することはできます。
名古屋場所の相撲案内所「寿」は、入場券を持っている客に飲食セット・お土産セット・パンフレットを販売しており、「寿でチケットをご購入でないお客さまもお求めいただくことができます」と公式に案内しています。東京場所でも、国技館サービスのお土産セット引換券は「大相撲の入場券を購入された方専用」として単体販売されています。つまり、抽選や一般販売で自力でチケットを取り、案内所には出物だけを追加で頼む——という使い方が成り立ちます。土産まで込みのセットは要らない、という人にはこの経路が現実的です。
逆に「入場券だけを案内所から買う」ことは基本的にできません。案内所の商いは飲食と土産で成り立っているため、席だけを売る形にはなっていないのです。
一見さんでも使えるのか、なぜ「取りにくい」と言われるのか
一見さんでも予約はできます。ただし近年は、案内所経由でも入場券の確保そのものが難しくなっています。
「維持員やタニマチでないと使えない」という話が広まっていますが、各案内所は公式サイトと電話で一般の予約を受け付けており、初めての客を断る仕組みにはなっていません。実際に案内所を使った人からは、一般販売が取れなかったときに案内所には残っていた、という声も聞かれます。
一方で、近年の大相撲人気を受けて需給は逼迫しています。国技館サービスは公式サイトに「現在、大相撲人気の高まりに伴い、弊社では従来のような入場券のお手配が困難な状況となっております」と明示しており、同社オンラインのチケット一覧は現在「該当商品はありません」と表示されます。大阪の二葉は令和8年大阪場所の全日程完売を告知し、令和9年分の販売開始を2026年12月頃と案内しています。名古屋の寿とかね秀も、令和8年七月場所は完売・受付終了です。
「案内所が一見さんを断っている」というより、興行を長く支えてきた年間契約の観客や団体への配席がもともとあり、そこに近年の需要増が重なって一般に回る枚数が細っている——というのが実情に近い見方です。案内所を使いたい場合は、次の場所の販売開始時期を各案内所のサイトで早めに確認してください。
相撲案内所の一覧|東京20軒・大阪・名古屋・福岡
両国国技館には一番から二十番まで20軒の案内所があり、いずれも国技館サービス株式会社が運営しています。
1957年の制度改革で番号制が導入されましたが、屋号そのものが消えたわけではありません。いまも番号と屋号の両方が使われています。
| 番号 | 屋号 | 番号 | 屋号 |
|---|---|---|---|
| 1番 | 髙砂家 | 11番 | 上庄 |
| 2番 | 紀乃國家 | 12番 | 四ッ万 |
| 3番 | 大和家 | 13番 | 武蔵屋 |
| 4番 | 吉可和 | 14番 | 白豊 |
| 5番 | みの久 | 15番 | 長谷川家 |
| 6番 | 中橋家 | 16番 | 河平 |
| 7番 | 和歌島 | 17番 | 藤しま家 |
| 8番 | 上州家 | 18番 | 伊勢福 |
| 9番 | 西川家 | 19番 | 竪川 |
| 10番 | 三河屋 | 20番 | 千鳥屋 |
「相撲茶屋 長谷川」「相撲案内所 髙砂家」「千鳥屋」といった名で検索されるのは、この屋号です。東京場所はどの案内所も国技館サービスの一括運営なので、店ごとにサービス内容が大きく変わるわけではありません。
大阪場所(エディオンアリーナ大阪)の相撲案内所
大阪の案内所は東京と違い、各社がそれぞれ独立して経営しており、料金も出物の内容も店ごとに異なります。
公式サイトで確認できる案内所には、大相撲案内所 本家、二葉、天野、いこま屋などがあります。本家は昭和11年開業の株式会社で、受付窓口は会場正面入口に置かれています。東京のように一社がまとめているわけではないので、予約は行きたい案内所のサイトから直接行ってください。
名古屋場所(IGアリーナ)の相撲案内所
名古屋場所の相撲案内所は、かね秀・寿・あすかの3軒で、いずれも日本相撲協会公認の独立経営です。
会場は2025年から、長年使われてきた愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)ではなくIGアリーナに移りました。3軒とも席種ごとのセット料金を公式サイトで公開しています。名古屋は料金が明快に示されている場所なので、案内所経由の費用感をつかみたい人はここを見るとわかりやすいはずです。
九州場所(福岡)の場合
九州場所には、東京・大阪・名古屋のような相撲案内所は置かれていないとされます。
福岡国際センターでは、会場の売店が弁当や土産の役割を担うかたちです。案内所を通した観戦を考えている場合、九州場所は勝手が違うと考えておいてください。
| 場所 | 会場 | 案内所の体制 | 予約の窓口 |
|---|---|---|---|
| 東京(1月・5月・9月) | 両国国技館 | 20軒。国技館サービス株式会社が一括運営 | 国技館サービスのサイト・代表電話 |
| 大阪(3月) | エディオンアリーナ大阪 | 本家・二葉・天野・いこま屋など。各社が独立経営 | 各案内所のサイト・電話 |
| 名古屋(7月) | IGアリーナ | かね秀・寿・あすかの3軒。各社が独立経営 | 各案内所のサイト・電話 |
| 福岡(11月) | 福岡国際センター | 相撲案内所は置かれていないとされる | — |
相撲案内所の歴史(桟敷方から相撲案内所へ)
相撲案内所の起源は、江戸時代の勧進相撲にさかのぼります。250年以上続く、興行を支える裏方の系譜です。
宝暦から明和の頃には、観客同士で桟敷札を調達し飲食を融通する営みがありました。寛政年間には「桟敷方(さじきかた)」と呼ばれる業者が組織され、天保年間には14の桟敷方が相撲会所から委託を受けて席札の販売や接客を担ったとされます。大相撲案内所 本家の公式サイトによれば、18世紀後半の江戸相撲では、桟敷札を売る「出方」、見物客を案内する「物持」、仕切役の「桟敷方」というように役割が分かれていました。出方という呼び名は、この頃から続いていることになります。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 宝暦〜明和年間 | 観客同士で桟敷札の調達や飲食の融通が行われる |
| 寛政年間 | 「桟敷方」が業者として組織される |
| 天保年間 | 14の桟敷方が相撲会所から委託を受ける |
| 1909年(明治42年) | 旧両国国技館の設立を機に「相撲茶屋」と呼ばれるようになる |
| 1957年(昭和32年) | 制度改革で「相撲案内所」に改称。一番〜二十番の番号制が導入される |
| 1985年(昭和60年) | 現在の両国国技館への移転にあわせ、運営会社が国技館サービス株式会社となる |
歌舞伎や人形浄瑠璃の劇場に「芝居茶屋」があったように、観る場を支える裏方は日本の興行文化に古くからありました。相撲案内所もその系譜に連なります。屋号が番号で整理された後も、席へ案内し、もてなすという役割の芯は変わらず受け継がれてきました。
相撲案内所に関するよくある質問
Q. お茶屋・相撲茶屋・相撲案内所は違うものですか?
A. 同じものです。正式名称が「相撲案内所」で、「お茶屋」「相撲茶屋」は江戸から親しまれてきた通称です。1957年の制度改革で相撲茶屋から相撲案内所へ改称されましたが、通称のほうも使われ続けています。
Q. 出方さんと呼出さんは何が違いますか?
A. 出方は相撲案内所の従業員で、客席の案内と飲食の配膳を担います。呼出は日本相撲協会の協会員で、力士を呼び上げ、土俵を整え、太鼓を打つのが仕事です。所属も職務もまったく別です。
Q. どの案内所を選べばよいですか?
A. 東京場所は20軒すべてを国技館サービス株式会社が運営しているため、店ごとの差を気にする必要はほとんどありません。大阪・名古屋は各案内所が独立経営で、料金や出物の内容が異なります。行きたい場所の案内所のサイトを見比べてください。
Q. 出方への心付け(ご祝儀)は必要ですか?
A. 案内をしてくれた出方に心付けを渡す作法が古くから伝わっており、「骨折り」とも呼ばれます。義務ではありません。相場や渡し方は相撲のお茶屋と心付けとは?相場・渡し方・マナーで解説しています。
Q. マス席は何人分の弁当・お土産を頼めばよいですか?
A. マス席は1枡を最大4名で使う単位で、出物は人数分を申し込むのが基本です。1枡あたりの席料と1人あたりの出物代を混同しやすいので、申込時に人数を明確に伝えてください。
まとめ|相撲案内所を知ると、観戦の一日が変わる
相撲案内所(お茶屋・相撲茶屋)は、大相撲観戦の一日を席から支えてきた伝統ある裏方です。要点を振り返ります。
- 正式名称は相撲案内所。通称の「お茶屋」「相撲茶屋」「大相撲案内所」も同じものを指す
- 両国国技館は1番髙砂家から20番千鳥屋まで20軒。大阪・名古屋は各社が独立経営で、九州場所には置かれていないとされる
- 料金は「席+出物(弁当・土産)+人の手」の総額。東京のお土産セット引換券は5,110円〜33,050円(令和8年九月場所・税込)
- 自力で取ったチケットに、案内所の飲食・お土産だけを追加することもできる
- 近年は人気の高まりで入場券の確保が難しく、案内所も完売が続いている。販売開始時期の早い確認が要る
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枡席に腰を下ろし、出方が運ぶお茶と弁当を手元に、土俵の攻防を見守る。相撲案内所がつないできたのは、券を売るという商いだけではありません。観る人を席へ導き、一日を心地よく過ごしてもらう——その作法こそが、江戸の桟敷方から受け継がれてきた観戦文化の一部です。次に国技館を訪れるとき、案内所の入口に掲げられた番号と屋号に目を留めてみると、大相撲の奥行きが少しだけ違って見えるかもしれません。

