「相撲」の漢字の由来は、「相(あい)=互いに」「撲(ぼく)=打つ・叩く」という漢語の組み合わせにあります。ただし注意したいのは、この漢字の意味がそのまま「すもう」という言葉の語源ではないという点です。読みの「すもう」は日本古来の動詞「すまふ(争ふ)」に由来し、そこへ後から漢字「相撲」が当てられたと考えられています。この記事では、漢字の成り立ちと、かつて使われた「角力」「捔力」「角觝」といった別表記までを順に整理します。
📖 この記事でわかること
- 「相撲」の二文字がそれぞれ何を意味する漢字なのか
- 漢字の意味と「すもう」という読みの語源が別ものである理由
- 「角力」「捔力」「角觝」など、かつて使われた別表記とその読み
- 相撲界を「角界」、相撲好きを「好角家」と呼ぶ理由
- いつごろ「相撲」の表記が主流になったのか
「相撲」の漢字の由来——「相=互いに」「撲=打つ」
「相撲」の漢字の由来とは、「互いに(相)」「打ち合う(撲)」という意味を持つ二字の漢語を、日本語の「すもう」に当てた表記のことです。文字そのものは組み合った力比べの様子を表しており、日本固有の言葉である読みとは成り立ちの筋道が別に分かれています。
まず、二つの漢字を分けて見ておきます。
| 漢字 | 音読み | 部首・画数 | 主な意味 | ほかの用例 |
|---|---|---|---|---|
| 相 | ソウ・ショウ | 目部・9画 | 互いに、ともに、向き合う | 相互・相談・相対 |
| 撲 | ボク | 手部(てへん)・15画 | うつ、なぐる、打ちたたく | 打撲・撲滅 |
「撲」は手偏の「うつ」——打撲・撲滅と同じ字
「撲」は日常であまり単独で使われないため、相撲以外では見慣れない字かもしれません。部首は手偏(てへん)で総画数は15画、音読みは「ボク」、訓読みとして「うつ」「なぐる」が挙げられます。同じ字を使う言葉が「打撲」や「撲滅」で、いずれも打ちたたく動作を含んでいます。
つまり「相撲」を字面のまま読み下せば「互いに打ち合う」となります。取組で立合いから当たり合う姿を思い浮かべると、文字の選び方には確かに納得できるところがあります。
漢字の意味は「語源」ではない——ここが最大の誤解
一方で、気をつけたいのがここです。「互いに打ち合うから、すもうと言うようになった」という説明を見かけることがありますが、これは順序が逆とされています。
「すもう」という読みは、古語の動詞「すまふ(争ふ)」に由来すると考えられています。「争う」「負けまいと張り合う」という意味の日本語が先にあり、そこへ意味の近い漢語「相撲」が当てられた、というのが有力な見方です。漢字は言葉に後から与えられた衣であって、言葉そのものの出どころではありません。
「すまふ」には「争う」だけでなく「固辞する・抵抗する」という含みもありました。相手の力を正面から受け止め、退くことを拒み続ける——大相撲の在り方と、この古い動詞は深いところで重なっています。
Q. 「相撲」の漢字はそれぞれどんな意味ですか?
A. 「相」は「互いに・ともに」、「撲」は「うつ・なぐる」を意味する漢字です。二字あわせて「互いに打ち合う」となります。「撲」は手偏の15画で、打撲・撲滅などにも使われる字です。
Q. 漢字の意味が「すもう」の語源なのですか?
A. 逆とされています。「争う・張り合う」を意味する古語「すまふ」が読みの由来で、漢字「相撲」は後から当てられた表記です。漢字の意味=語源、と考えるのはよくある誤解です。
この漢語はどこから来たのか——渡来した「相撲」の二文字
では、当てられた側の「相撲」という漢語自体はどこで生まれたのでしょうか。文字が日本で作られたものではない以上、来歴は大陸にさかのぼります。
一説には、梵語(サンスクリット)の語が409年に漢訳された際の新しい訳語が「相撲」であり、それが6世紀半ばごろ日本へ伝わって、すでにあった大和ことばの「すまふ」に当てられたとされます(日本大百科全書)。ただしこの由来を明記する資料は限られており、断定は控えるべき説として押さえておきたいところです。
中国では力比べを表す語そのものが時代とともに移り変わっており、手搏(しゅはく)から角抵(かくてい)、角力(かくりょく)を経て、相撲(シアンプー)、さらに摔角(シュアイジャオ)へと呼び名が変化したと整理されています。日本の「相撲」は、この語群のひとつを受け取ったものと考えられます。
平安時代の辞書に残る「相撲 須末比」
漢字と和語が結びついていた証拠は、日本側の文献にも残っています。平安時代の辞書『和名抄』には「相撲 須末比」と記されており、漢字「相撲」に「すまひ」という読みが与えられていたことが分かります。
なお「すまふ」から「すまひ」を経て「すもう」へと変化した経路については、ウ音便化を裏づける確定的な文献がなく、どちらの形が先かを断定することはできないとされています(語源由来辞典)。ここは諸説あるものとして受け止めておくのが誠実でしょう。
Q. 「相撲」という漢字は中国から来たのですか?
A. 文字自体は漢語で、大陸から伝わったものとされます。ただし競技としての相撲が中国から直接伝わったという意味ではありません。日本の神事・力比べに、意味の近い漢語表記が当てられたと考えられています。
「角力」「捔力」「角觝」——すもうを表した別の漢字表記
「すもう」に当てられた漢字は「相撲」だけではありませんでした。江戸時代までの文献では複数の表記が併用されており、いずれも「力をくらべる」という意味の語です。
| 表記 | 読み | 字義 | 主に見られる文脈 |
|---|---|---|---|
| 相撲 | すもう | 互いに打ち合う | 平安期の辞書から現代まで。現在の標準表記 |
| 角力 | すもう/かくりょく | 力をくらべる | 江戸期〜明治・大正期に広く使われた表記 |
| 捔力 | すまひ | 力をくらべる | 『日本書紀』に見られる古い表記 |
| 角觝・角抵 | すもう/かくてい | 角を突き合わせて抵する | 中国由来の語。江戸期の一部で使用 |
「角」の字には「くらべる・きそう」という意味があり、そのため「角力」で「力くらべ」を表すことができました。同じ二文字を「かくりょく」と音読みすることもあり、読みが一通りに定まっていなかったことも、当時の表記の揺れをうかがわせます。
相撲界を「角界」、相撲好きを「好角家」と呼ぶ理由
この「角力」という表記は、いまも言葉の中に生き残っています。相撲界を指す「角界(かくかい)」、熱心な相撲ファンを指す「好角家(こうかくか)」——いずれも「角力」の「角」を受け継いだ語とされています。
「なぜ相撲界なのに角なのか」という疑問は、表記の歴史をたどると自然に解けます。相撲が「角力」と書かれていた時代の言葉が、そのまま今日まで残ったということです。
いつごろ「相撲」の表記が主流になったのか
表記の移り変わりを年代で見ると、19世紀から20世紀初頭にかけては「角力」と書かれることが多かったとされています。実際、東京の相撲興行を取り仕切った団体の名も「東京大角力協会」でした。
その団体が1925年12月に財団法人大日本相撲協会として認可を受け、組織の名において「相撲」の表記が用いられます。これは公的な名称として「相撲」が定着していく契機のひとつと見るのが妥当で、この改称だけで世の中の表記がすべて切り替わったわけではありません。表記の主流は、こうした節目を挟みながら徐々に移っていったと考えられます。
Q. 「角力」と「相撲」はどちらが正しい表記ですか?
A. どちらも「すもう」を表す表記で、正誤の関係ではありません。「角力」は江戸期から大正期にかけて広く使われ、現在は「相撲」が標準表記となっています。「角界」「好角家」は角力表記の名残とされます。
Q. 「角力」は「かくりょく」と読むのですか?
A. 「すもう」とも「かくりょく」とも読まれます。相撲の意味で用いる場合は「すもう」と読ませることが多く、「かくりょく」は力くらべの意味合いで使われます。
言葉の裏にある歴史——神話の力比べから勧進相撲まで
漢字の来歴をたどると、その文字がどんな営みに与えられたのかも気になってきます。ここでは年表として要点だけ整理します。
『日本書紀』には、垂仁天皇7年(紀元前23年とされる)に出雲の野見宿禰(のみのすくね)と大和の当麻蹴速(たいまのけはや)が天覧の場で力を競った記述があり、これが相撲の起源と伝えられています。原文でこの力比べに用いられているのは「捔力」の表記です。当時は蹴り技も含む激しいもので、命を落とす結果になったと記されています。現代の競技とは大きく異なる姿でした。
一方、「相撲」の文字が用いられ、年代を特定できる記録としては、642年(皇極天皇1年)の記述が挙げられます。百済からの使者をもてなす宴で、宮廷の健児に相撲を取らせたというものです。神話の領域と史実の記録が、このあたりで一本の線としてつながっていきます。
| 時代 | 形態 | 主な目的 | 表記・言葉の動き |
|---|---|---|---|
| 神話・古代 | 神事相撲 | 豊作祈願・占い | 『日本書紀』は「捔力」表記。642年に「相撲」の記述 |
| 奈良・平安時代 | 相撲節会(すまひのせちえ) | 五穀豊穣・天下泰平の祈念 | 『和名抄』に「相撲 須末比」。読みは「すまひ」 |
| 鎌倉・戦国時代 | 武家相撲 | 武芸訓練・娯楽 | 上覧相撲が行われ、土俵の原型が生まれたとされる |
| 江戸時代 | 勧進相撲 | 社寺修繕の資金集め・庶民の娯楽 | 「相撲」「角力」「角觝」が併用される |
| 明治〜大正 | 興行としての大相撲 | 職業競技としての整備 | 「角力」表記が多用。1925年に大日本相撲協会が認可 |
歴史そのものをより詳しくたどりたい方は、相撲とは?ルール・歴史・魅力をわかりやすく解説もあわせてご覧ください。相撲が「国技」と呼ばれる根拠については日本の国技は相撲?法的根拠と「国技」と呼ばれる本当の理由で扱っています。
Q. 相撲は中国から伝わった競技なのですか?
A. 表記に用いられた漢字は大陸から伝わったものとされますが、競技そのものは各地の農耕儀礼や神事としての力比べに根を持つと考えられています。起源をどこかひとつに断定できるものではありません。
漢字と同じく、所作にも残る神事の意味
言葉や文字に古い由来が残っているのと同じように、土俵上の所作にも神事としての意味が受け継がれています。取組前の一連の動きは演出ではなく、土俵を清め、正々堂々と戦うことを示す儀式です。
とくに文字と関わりが深いのが「四股(しこ)」です。もともとは「醜(しこ)」と書き、地中の邪気を踏み固めて大地を鎮める神事に由来するとされています。当てられた漢字が変わっても、動作に込められた意味は残りました。「塩まき」は土俵の邪気を祓う清めの所作、「塵手水(ちりちょうず)」は手に何も持たないことを相手に示す所作とされ、いずれも由来をたどれば言葉と同じく古い層に行き着きます。
所作や構えの名前を一つずつ確かめたい方は、相撲の構え・ポーズの名前一覧|基本動作の意味と作法をわかりやすく解説が参考になります。
Q. 「四股」も当て字なのですか?
A. もともとは「醜(しこ)」と書かれ、邪気を踏み鎮める意味を持つ所作だったとされます。のちに「四股」の字が当てられました。相撲の言葉には、このように表記が移り変わった例がいくつも見られます。
まとめ
「相撲」の漢字の由来は、「相=互いに」「撲=打つ」という漢語の組み合わせにあります。ただし文字の意味がそのまま読みの語源ではなく、「すもう」は古語「すまふ(争ふ)」に由来し、そこへ漢語「相撲」が当てられたと考えられています。かつては「角力」「捔力」「角觝」といった表記も併用され、その名残が「角界」「好角家」という言葉に今も残っています。表記が「相撲」に落ち着いていく節目のひとつが、1925年の大日本相撲協会の発足でした。
二千年近い時間のなかで、呼び名も文字も少しずつ姿を変えてきました。それでもなお、土俵の上でひたすら相手と向き合い、退くことを拒むという核だけは変わっていません。「すまふ」という古い言葉が指していたものが、今日の取組にもそのまま立っているのだと思えば、一番の見え方も少し違ってくるはずです。
