2026年5月22日、両国国技館の大相撲夏場所13日目。十両・炎鵬が明生を豪快な下手投げで破り、関取として2023年春場所以来19場所ぶりとなる勝ち越し(8勝5敗)を決めた瞬間、館内には割れんばかりの大歓声が響き渡りました。脊髄損傷の重傷を負い、医師から「車いす生活の可能性」を告げられながらも現役続行を決断した力士が、序ノ口(最下位)まで転落してから約2年——この記事では、炎鵬の復活劇をたどります。
この記事でわかること
- 3年ぶり勝ち越しの詳細: 2026年夏場所13日目、炎鵬が明生を下手投げで破り8勝5敗。関取として19場所ぶりの勝ち越しを達成した。
- 脊髄損傷からの軌跡: 2023年夏場所で途中休場後に脊髄損傷と診断、7場所連続全休・序ノ口転落という過酷な経緯を経て2024年名古屋場所で復帰した。
- 昭和以降初の快挙: 幕内経験者が序ノ口まで転落して関取に復帰したのは昭和以降で炎鵬が初めてであり、今後の幕内復帰挑戦も現実味を帯びてきた。
13日目・下手投げで明生を撃破 勝ち越しの瞬間
2026年5月22日午後3時すぎ、夏場所13日目の十両取組。炎鵬(伊勢ケ浜部屋・十両14枚目・31歳)が明生(立浪部屋)と向き合いました。
立ち合いからすぐに泳ぐ場面もあり、「一瞬ダメかと思った」という際どい局面。それでも炎鵬は下手まわしを引きつけ、「心が持ちこたえてくれた」と本人が振り返る粘りを発揮。得意の下手投げで明生を崩し、土俵に転がしました。
勝ち越しを決めた直後、炎鵬は報道陣の前でこう語っています。「ガムシャラ、無我夢中でした」「長かったですね。人に支えられている感じがして、すごい力が出た」「相撲をまだ続けられるんだな(と実感した)」。この3年間に積み上げてきた重みが凝縮されたコメントでした。
13日目終了時点の成績は8勝5敗。11日目に7勝目を挙げてから2連敗と苦しんだ末の勝ち越しだったことも、この白星の価値を一層際立たせています。
読者がよく抱く疑問を以下に整理します。
Q. 炎鵬が今場所(夏場所2026)に勝ち越した成績は?
A. 13日目終了時点で8勝5敗。下手投げで明生を破り、関取として3年(19場所)ぶりの勝ち越しを決めました。
この勝ち越しは、炎鵬にとって「土俵に戻ってきた証明」であると同時に、次のステージへの出発点でもあります。
脊髄損傷から「車いす可能性」——炎鵬の怪我と長期休場の経緯
炎鵬の受難は2023年夏場所から始まりました。十両として出場していた同場所で首に強い痛みを感じ途中休場。その後の精密検査で脊髄損傷の診断が下りました。相撲の動作に直結する頸部への損傷であり、主治医からは「車いす生活になる可能性がある」と告げられるほどの重傷でした。
多くの関係者が引退を視野に入れるなか、炎鵬は即座に「現役続行」を決断したと伝えられています。「相撲が好き。土俵で倒れてもいい」という言葉が、その信念の強さを物語っています。
以下の図は、炎鵬の休場から関取復帰、そして今場所の勝ち越しに至る経緯をまとめたものです。
この図が示すとおり、脊髄損傷の診断から関取復帰まで炎鵬は7場所連続の全休を経験しています。2024年名古屋場所でようやく序ノ口として土俵に戻ったものの、それは最高位(小結)から番付の最下層への”落下”を意味していました。
Q. 炎鵬はなぜ長期休場したのですか?
A. 2023年夏場所で首を痛めて途中休場後、脊髄損傷と診断されました。医師から「車いす生活の可能性」を指摘されるほどの重傷で、翌場所から7場所連続全休を余儀なくされました。
それでも炎鵬は「土俵に戻る」という一点を曲げませんでした。この個人の意志こそが、後に続く「昭和以降初」の快挙を生み出す原動力となったのです。
序ノ口からの奇跡の番付回復——昭和以降「史上初」の快挙
大相撲の番付は、欠場が続くと自動的に降下します。7場所(約1年半)の連続全休を経た炎鵬は、最高位・小結の経験を持つ幕内力士でありながら、序ノ口(番付の最下段)まで落下しました。
序ノ口からの番付上昇は、通常1場所で1〜2段しか進めません。関取(十両)に到達するには、順調に行っても数年かかる計算です。ところが炎鵬は2024年名古屋場所での序ノ口復帰から、わずか約2年(2026年夏場所)で十両に返り咲いています。
そして2026年春場所で幕下の成績(5勝2敗)を積み上げ、夏場所の番付編成会議で再十両が正式に決定。昭和以降、幕内経験者が序ノ口まで転落してから関取に復帰した例は、炎鵬が史上初とされています(読売新聞・スポーツ報知)。
大相撲のファンや解説者が「奇跡」と表現するゆえんは、この数字の重さにあります。炎鵬の復帰を支えてきた豊昇龍智勝(ほうしょうりゅう ともかつ)完全ガイド|第74代横綱の強さ・技術・素顔でも紹介しているように、現代の大相撲は体格・身体能力が問われる場所でもあります。体重約98kgの炎鵬がそこで生き残り続けていること自体、異例といえます。
Q. 炎鵬は序ノ口から関取に復帰した初めての力士ですか?
A. 昭和以降、幕内経験者が序ノ口まで転落して関取に復帰した例は史上初とされています。2024年名古屋場所に序ノ口で復帰し、約2年で十両に返り咲きました。
「史上初」という記録は炎鵬を語る上での背景に過ぎません。それよりも大切なのは、その記録の裏に「引退を勧告されても即現役続行を選んだ」一人の力士の意志があるという事実です。
宮城野部屋閉鎖・伊勢ケ浜部屋転籍——環境激変を乗り越えた再スタート
炎鵬の苦難は怪我だけではありませんでした。もともと所属していた宮城野部屋が閉鎖されたことに伴い、炎鵬は伊勢ケ浜部屋へ転籍しています。
相撲部屋は単なる練習場所ではなく、力士の日常生活・食事・精神的基盤そのものです。脊髄損傷のリハビリ中という最も脆弱な時期に、生活環境が根こそぎ変わるというダブルの試練を炎鵬は経験しました。
また炎鵬はこの時期、しこ名の下の字を「晃」から本名「友哉」に改めています。「心機一転」という言葉を添えたこの改名は、怪我と環境変化を経た上での”再出発”の宣言でもありました。
Q. 炎鵬は現在どの部屋に所属していますか?
A. 伊勢ケ浜部屋に所属しています。もともと宮城野部屋でしたが、部屋閉鎖に伴い伊勢ケ浜部屋へ転籍しました。
それでも炎鵬は新たな環境に適応し、着実に番付を回復させました。部屋の変化が炎鵬にとって逆風ではなく新たな力の源泉になった可能性も、今場所の結果は示唆しています。
館内大歓声・地元金沢の熱量——ファンが支えた「19場所」
下手投げが決まった瞬間、両国国技館の館内には大歓声と拍手が沸き起こりました。炎鵬は土俵を降りながら「人に支えられている感じがして、すごい力が出た」と語っています。
(編集部分析)炎鵬の復活が多くの人の心を打つのは、彼の物語が「個人の精神力の勝利」として読み取れるからではないでしょうか。脊髄損傷という医学的な限界の前で、周囲の引退勧告を押しのけて「自分の意志で続ける」と決めた——その選択の重さが、観客の感情を呼び起こしています。相撲の勝ち負けではなく、一人の人間の生きざまへの共感がこの歓声の正体です。
地元・石川県金沢市松村でも、関取返り咲きを記念した「応援市」が8日目(5月17日)に開催されました。大勢のファンが「勝ち越しを」「一日でも長く土俵に」とエールを送り、炎鵬はその熱量を背に後半戦へ臨んでいます。「疲れはない。体も元気なので、ここから」という8日目のコメントは、地元の声援を正面から受け取っていた証でもあります。
日本相撲協会公式X(旧Twitter)では、勝ち越しを報じた投稿が本日中だけで6,800超のインプレッションを記録。ハッシュタグ「#相撲」「#五月場所」を中心に祝福の声が広がっており、批判的な反応は確認されていません。19場所にわたる炎鵬の歩みを、ファンは共に歩んできたのです。
名古屋場所は4年ぶり関取場所——幕内復帰へのロードマップ
今夏場所の勝ち越しにより、炎鵬は2026年7月の名古屋場所を4年ぶりに「関取」として迎える見通しとなっています。
現在の番付は十両14枚目。今場所の最終成績次第では番付が上昇し、名古屋場所での上位十両定着が視野に入ります。十両で安定して勝ち越しを重ねれば、幕内復帰の現実味は一段と高まります。
体重約98kgは十両力士のなかでも最軽量クラスです。大型化が進む現代の大相撲で、小兵の技巧派が幕内で戦い続けるには相応のハードルがあります。ただし炎鵬の武器は体重ではなく、素早い動きと下手投げ・とったりといった技のレパートリーです。31歳という年齢もあり「峠を越えた」とみる向きもありますが、今場所の勝ち越しはそうした見方を覆す内容でした。
炎鵬自身は「相撲をまだ続けられるんだな」と語るにとどめており、具体的な目標は明かしていません。ただ「ここから」という言葉を繰り返す姿は、まだ先を見据えていることを示しています。
Q. 炎鵬の得意技は何ですか?
A. 小兵(体重約98kg)ながら下手投げを得意とし、素早い動きと粘り腰で大型力士を攻略するスタイルで知られています。
Q. 炎鵬の今後の目標は幕内復帰ですか?
A. 明言はされていませんが、名古屋場所(2026年7月)は4年ぶりに関取として迎える見通しで、成績次第では幕内復帰の現実味が高まります。
脊髄損傷・序ノ口転落・部屋解散——三重の困難を越えた炎鵬の次の舞台が、今から楽しみです。
参考情報
- デイリースポーツ「炎鵬が3年ぶり勝ち越し 明生を下手投げで破る」(2026年5月22日)
https://www.daily.co.jp/general/2026/05/22/0020385060.shtml - 日本相撲協会公式X @sumokyokai(2026年5月22日投稿)
https://x.com/sumokyokai/status/2057728923811897716 - スポーツ報知「炎鵬が奇跡の関取復帰」(2026年3月25日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/19cc000d6f1392cf68f0566471481de3bd965fab - 読売新聞「脊髄損傷で序ノ口まで転落した元幕内・炎鵬が関取復帰、昭和以降で初」(2026年3月25日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/432c5b04f4f2a3a0d34535b47468bfc7f8e2b37b - 北國新聞「炎鵬、エールを背に6勝」(2026年5月18日)
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/2109659