日本の伝統的なスポーツとは、神事や武道を起源に持ち、長い歴史の中で様式化・競技化された運動文化の総称です。なかでも相撲は日本相撲協会が「人間の力くらべから発生した伝統あるスポーツ」と定義する国技で、1,300年以上の歴史を持ちます。剣道・柔道・弓道なども日本の伝統的なスポーツとして世界に知られていますが、相撲はプロ興行(大相撲)として独自の発展を遂げた点が際立っています。
日本の伝統的なスポーツとは
日本の伝統的なスポーツは、競技として勝敗を競うだけでなく、礼儀作法・精神修養・神事としての側面を併せ持つものが多い点が共通の特徴です。
代表的なものとして、相撲(大相撲)・剣道・柔道・弓道・合気道・空手道などが挙げられます。これらは日本武道協議会が定める「武道」として体系化されており、単なる競技を超えた「道(どう)」として人格形成を目的とする文化的側面が重視されています。
なかでも相撲は、神話時代にまでさかのぼる起源と、プロ興行としての大相撲、さらに全国各地の神社で行われる奉納相撲(神事相撲)という三つの顔を持つ、日本固有の伝統的なスポーツです。
以下の基本的な疑問についても確認しておきましょう。
Q. 日本の伝統的なスポーツといえば何ですか?
A. 相撲(大相撲)が代表格です。日本相撲協会が「伝統あるスポーツ」と公式に定義しており、1,300年以上の歴史を持つ国技として知られています。剣道・柔道・弓道なども日本武道として伝統的な競技に数えられます。
相撲がなぜこれほど「伝統的なスポーツ」の代名詞となったのか、その歴史をひもといてみましょう。
相撲の歴史――神話時代から現代の大相撲へ
相撲は神事と競技が一体となった形で1,300年以上にわたって受け継がれてきた、日本最古の伝統スポーツです。
日本相撲協会公式サイトによれば、相撲の起源として古事記(712年)や日本書紀(720年)に記された力くらべの神話が挙げられています。とりわけ野見宿禰(のみのすくね)と當麻蹶速(たいまのけはや)の天覧勝負の伝説は、相撲の始まりを象徴するエピソードとして知られています。
その後、相撲はその年の農作物の収穫を占う祭りの儀式として毎年行われ、やがて宮廷の行事(相撲節会)となって約300年にわたって続きました。鎌倉・戦国時代には武士の戦闘訓練として盛んに行われ、織田信長が天正年間(1570〜92年)に各地から力士を集めて上覧相撲を催したことは広く知られています(日本相撲協会公式サイトより)。
興行として組織化されたのは江戸時代です。1684年(貞享元年)に幕府が寺社奉行管轄下の相撲団体を認可し、江戸・富岡八幡宮での第1回興行が記録されています。その後、本所の回向院での開催が定着し、現在の番付制度や土俵のルールの基礎が確立されていきました。
近代的な転換点となったのが、明治42年(1909年)の国技館完成です。常設館での興行というスタイルが生まれ、開館にあたって「相撲は日本の国技」という表現が用いられたことから、相撲は「国技」として社会的に定着しました。
相撲の歴史の流れを以下の図で確認してみてください。
このように、相撲は神事・宮廷行事・武家の鍛錬・江戸の興行・近代スポーツという段階を経て、現在の大相撲の形へと洗練されてきました。
Q. 相撲はいつ頃から行われていますか?
A. 古事記(712年)・日本書紀(720年)に力くらべの記録があり、少なくとも1,300年以上の歴史があります。農作物の収穫を占う祭りの儀式として始まり、宮廷行事・武家の訓練を経て江戸時代に現在の興行形式が確立しました。
その長い歴史の果てに生まれた現代の大相撲は、どのような仕組みで運営されているのでしょうか。
大相撲の仕組みとルール
大相撲とは、日本相撲協会が主催するプロ相撲の定期興行で、年6回の本場所を中心に運営される競技・文化の両面を持つ興行です。
基本ルール
笹川スポーツ財団の資料によれば、取組(試合)の勝敗は「相手の身体(足の裏以外)を土につけるか、土俵の外に出した方が勝利」というシンプルなルールで決まります。体重別の階級制がなく、200kgを超える力士と100kg台の力士が無差別に対戦するのは、相撲固有の特徴です。
日本相撲協会が公認する決まり手(勝利のパターン)は全82手あり、押し出し・寄り切り・上手投げなどがよく知られています。
番付と本場所
力士は「番付(ばんづけ)」と呼ばれる格付けによって序列が決まります。最上位から横綱・大関・関脇・小結・前頭(以上が「幕内」)、十両・幕下・三段目・序二段・序ノ口という階層があります。
本場所は年6回、各15日間にわたって開催されます。
| 場所名 | 開催月 | 開催地 |
|---|---|---|
| 初場所 | 1月 | 東京(両国国技館) |
| 春場所 | 3月 | 大阪(エディオンアリーナ大阪) |
| 夏場所 | 5月 | 東京(両国国技館) |
| 名古屋場所 | 7月 | 名古屋(ドルフィンズアリーナ) |
| 秋場所 | 9月 | 東京(両国国技館) |
| 九州場所 | 11月 | 福岡(福岡国際センター) |
大相撲の「国技」という呼称については、一点注意が必要です。
Q. 相撲は本当に「国技」なのですか?
A. 相撲は社会的に「日本の国技」と呼ばれていますが、法律や政令で国技と定めた規定は存在しません。明治42年(1909年)に国技館が完成した際に「相撲は日本の国技」という表現が広まり、以来慣習的に国技と称されています。
Q. 大相撲の本場所は年に何回ありますか?
A. 年6回です。1月(東京)・3月(大阪)・5月(東京)・7月(名古屋)・9月(東京)・11月(福岡)に各15日間開催されます。
勝敗のルールと興行の仕組みを理解したうえで、次は競技の外側にある「神事としての相撲」の姿を見てみましょう。
相撲の所作に込められた意味――神事としての側面
相撲は競技である以前に、神様に捧げる神事としての側面を持つ儀式的なスポーツです。
取組の前後に行われる所作の一つひとつには、神道の思想に基づいた意味が込められています。
四股(しこ)は、力士が足を高く上げて踏み降ろす動作で、稽古の基本です。大地を踏み固めることで邪気を鎮め、五穀豊穣を祈るとされる神事的な所作に由来します。
塩まきは、取組前に力士が土俵に塩をまく行為で、神道における清めの作法です。土俵を清浄に保ち、神前での対決にふさわしい場を整える意味があります。
土俵入りは、横綱や幕内力士が取組前に行う儀式的な入場です。横綱の土俵入りは特に格式高く、雲龍型・不知火型の2つの型があります。
X(旧Twitter)上でも、地方神社で行われる奉納相撲(神事相撲)の動画や写真が話題になることがあり、相撲の神事としての本質に改めて注目するファンの声が見られます。
相撲と他の伝統的なスポーツ・武道との違い
相撲は、日本の他の伝統的なスポーツ・武道と比べても際立った独自性を持つ競技です。
日本の伝統的なスポーツは大きく「相撲」と「武道(剣道・柔道・弓道・合気道・空手道など)」に分けられます。武道の多くは学校教育や道場での稽古を通じてアマチュアに普及しており、柔道・空手道はオリンピック種目にもなっています。一方、相撲はプロ興行である大相撲を中心に発展してきた点が最大の特徴です。
また、相撲は体重別の階級制を持たない唯一の日本の格闘競技です。柔道・空手道はいずれも体重階級制を採用していますが、相撲では200kgを超える力士と100kg台の力士が同じ土俵で対戦します。「大きな体が有利だが、技術と機動力でそれを覆せる」という構造が、相撲の醍醐味の一つとなっています。
Q. 相撲と柔道・剣道はどう違うのですか?
A. 相撲はプロの興行(大相撲)として発展した点が最大の特徴です。柔道・剣道は主にアマチュアの学校教育や道場稽古で普及しており、オリンピック種目にもなっています。相撲は無差別級で体重制がない点も他の武道と異なります。
伝統的なスポーツとしての相撲の位置づけを、他の武道と並べて整理すると以下のようになります。
| 競技 | 起源 | 体重階級 | プロ興行 | 五輪種目 |
|---|---|---|---|---|
| 相撲 | 神話時代(712年〜) | なし(無差別) | あり(大相撲) | なし |
| 柔道 | 1882年(嘉納治五郎創始) | あり(7階級) | なし | あり(1964年〜) |
| 剣道 | 江戸時代(剣術が起源) | なし | なし | なし |
| 空手道 | 沖縄(琉球武術が起源) | あり(8階級) | なし | あり(2020年〜)※2024年除外 |
それぞれが異なる形で日本の伝統を受け継いでいますが、1,300年以上の歴史と現役のプロ興行という組み合わせは、相撲だけが持つ唯一の特徴といえます。
まとめ
日本の伝統的なスポーツの代表格である相撲は、神話時代を起源に持ち、宮廷行事・武家の鍛錬・江戸の興行を経て現代の大相撲へと発展しました。競技としてのシンプルなルールと、神事・礼儀作法・所作の様式美が一体となっている点が、他のスポーツにはない相撲固有の魅力です。剣道・柔道・弓道など他の伝統的な武道とあわせて、日本が世界に誇る身体文化として親しまれ続けています。
