横綱とは、大相撲における力士の最高位です。大関で2場所連続優勝またはそれに準ずる成績を収め、横綱審議委員会の推薦を経て昇進します。他の番付と異なり降格がない一方、成績不振が続けば自ら引退して責任をとる、絶対的な地位です。
横綱とは——大相撲における「最高にして不退転の地位」
横綱は、大相撲において力士が到達できる最高の地位です。
他の番付と根本的に違うのは「降格がない」という点です。大関以下の力士は成績不振が続けば番付が下がりますが、横綱に一度昇進すると、大関以下に降格することはありません。
しかし、その代わりに横綱には重い責任が課せられます。成績不振や長期休場が続いた場合、引退によって責任をとる慣習があります。「降格なし・引退責任」という構造が、横綱を大相撲のなかで別格の存在にしています。
また、横綱だけが「横綱土俵入り」を行う権限を持ちます。本場所の取組前に行われるこの儀式は、神事としての相撲の伝統を色濃く残す大相撲の見どころのひとつです。
横綱が正式な番付上の地位として明文化されたのは1909年のことです。それ以前は「大関」が最高位であり、横綱は特定の師匠から授与される「免許」の形で与えられていました。
Q. 横綱は負け越しても降格しないのですか?
A. 横綱は一度昇進すると大関以下に降格しません。ただし、成績不振や長期休場が続いた場合は引退で責任をとる慣習があります。この「降格なし・引退責任」の構造が横綱を特別な地位にしています。
横綱の地位の重さをつかんだところで、次はその歴史的な背景を見ていきましょう。
横綱の歴史——綱の由来から江戸時代・明治の制度化まで
横綱という言葉は、土俵入りの際に腰に巻く「綱」に由来します。
江戸時代、力士が神事の場で土俵入りを行う際に太い綱を締めたことが横綱の起源とされています。初代横綱は明石志賀之助(あかしかがのすけ)とされていますが、江戸時代の記録には不確かな部分が多く、伝説的な存在です。
横綱が制度として整備され始めたのは幕末から明治にかけてのことです。当初は特定の親方から「横綱免許状」を授与される形で認められており、力士の地位というよりも「称号」に近いものでした。
1909年(明治42年)、相撲の近代化が進んだ際に横綱は正式な番付上の最高位として規定されました。このとき第17代横綱・初代小錦が「制度化後初の横綱」として位置づけられています。
Q. 初代横綱は誰ですか?
A. 初代横綱は明石志賀之助とされています。江戸時代の人物のため詳細な記録は少なく、伝説的な存在です。横綱が番付上の正式な地位として明文化されたのは1909年(第17代・初代小錦の頃)以降です。
歴史的な背景を踏まえたうえで、現代の昇進のしくみを確認しましょう。
横綱になる条件——横綱審議委員会と昇進のしくみ
横綱への昇進には、明確な数値基準はありません。
一般的な目安として「大関で2場所連続優勝またはそれに準ずる好成績」が求められますが、最終的な判断は横綱審議委員会(横審)が行います。横審は学識経験者・文化人・スポーツ関係者などで構成された外部委員会で、成績だけでなく「品格・力量・相撲内容」を総合的に審議します。
横審が昇進を推薦すると、日本相撲協会の理事会で正式に承認され、昇進が決定します。その後、力士は師匠とともに伝達式に臨み、「横綱としての責任を果たすべく精進します」などの口上を述べます。
なお、横綱昇進後には土俵入りの「型」を雲龍型・不知火型のいずれかから選択する必要があります。型の選択は所属する一門の慣習に沿うことが多く、師匠の型を引き継ぐケースが大半です。
Q. 横綱になるにはどんな条件が必要ですか?
A. 一般的な目安は「大関で2場所連続優勝またはそれに準ずる成績」です。ただし横綱審議委員会が成績だけでなく品格・力量を総合的に審議するため、明確な数値基準は設けられていません。
昇進後に選択する土俵入りの型について、次のセクションで詳しく解説します。
横綱土俵入りの型——雲龍型と不知火型の違いを解説
横綱土俵入りには「雲龍型(うんりゅうがた)」と「不知火型(しらぬいがた)」の2種類があります。
雲龍型は第10代横綱・雲龍久吉が確立した型で、せり上がりの際に片手(右手)を広げ、左手を脇腹に添えます。攻めと守りの姿勢を示すとされます。不知火型は第8代・第11代横綱の不知火が受け継いだ型で、せり上がりの際に両腕を左右に大きく広げるのが特徴です。攻めの姿勢を示す豪快な型とされています。
2つの型の主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 雲龍型 | 不知火型 |
|---|---|---|
| せり上がりの腕 | 片手(右手)を広げる | 両腕を左右に大きく広げる |
| 綱の結び目(輪の数) | 1つ | 2つ(綱が重い) |
| 象徴する姿勢 | 攻守兼備 | 攻め・豪快 |
| 採用しやすい一門 | 出羽海・高砂・時津風・二所ノ関一門(多数) | 伊勢ヶ濱一門(全員)ほか |
| 主な歴代横綱 | 双葉山・大鵬・北の湖・千代の富士・稀勢の里・豊昇龍・大の里 など | 白鵬・照ノ富士・日馬富士・旭富士・琴櫻(53代) など |
昭和以降の歴代横綱では、雲龍型が31名、不知火型が11名と雲龍型が多数を占めています(相撲博物館展示資料より)。
型の選択は所属する一門の慣習に大きく左右されます。伊勢ヶ濱一門は全員が不知火型を選択する一方、出羽海・高砂・時津風の各一門は全員が雲龍型を採用しています。2026年現在、現役横綱の豊昇龍(立浪部屋)と大の里(二所ノ関部屋)はともに雲龍型を選択しています。
なお、不知火型の横綱には「短命のジンクス」があるとも言われます。第51代・玉の海が在位10場所で急逝し、第53代・琴櫻が9場所で引退したことが語り継がれていますが、第69代・白鵬が不知火型で歴代最多45回の幕内優勝を記録していることからも、あくまで迷信の域を出ないものです。
以下の図は、雲龍型と不知火型のせり上がり動作の違いを示したものです。
土俵入りの型を理解すると、本場所での横綱の登場がより深く楽しめます。
Q. 雲龍型と不知火型の違いは何ですか?
A. 横綱土俵入りには雲龍型と不知火型の2種類があります。雲龍型はせり上がりの際に片手を広げ、不知火型は両手を大きく広げるのが特徴です。また綱の結び目の輪の数も異なり、雲龍型は1つ、不知火型は2つです。(日本相撲協会公式サイトより)
続いて、現在の横綱の顔ぶれと「横綱不在」という現象について見ていきましょう。
現在の横綱は何人?——現役横綱一覧と横綱不在の実態
2026年5月現在、現役横綱は2名です。
| 代 | 四股名 | 所属部屋 | 土俵入りの型 | 出身 |
|---|---|---|---|---|
| 第74代 | 豊昇龍(ほうしょうりゅう) | 立浪部屋 | 雲龍型 | モンゴル |
| 第75代 | 大の里(おおのさと) | 二所ノ関部屋 | 雲龍型 | 日本(石川県) |
第73代・照ノ富士は2026年1月場所中に現役を引退し、現在は伊勢ヶ濱部屋の親方として後進の指導にあたっています。
大の里は2025年に第75代横綱として昇進した日本出身力士です。前の日本出身横綱は第72代・稀勢の里(現・二所ノ関親方)で2019年1月に引退しており、大の里はその後初めて誕生した日本出身横綱として注目を集めました。石川県出身の横綱としては第56代・横綱輪島以来52年ぶりとなります。
2026年5月場所(夏場所)は、豊昇龍・大の里がともに休場し、横綱不在の状態で全15日が行われるという異例の展開となりました。X(旧Twitter)上では「横綱不在でも優勝争いが盛り上がっている」という声がある一方、「横綱の不在が続く構造的な問題」を指摘する声も上がりました。
「横綱不在」は過去にも複数回発生しています。直近の長期不在は1992年(平成4年)5月場所から1993年(平成5年)1月場所にかけての5場所連続で、曙の横綱昇進前の時期に当たります。
Q. 横綱は今何人いますか?
A. 2026年5月現在、現役横綱は第74代・豊昇龍(立浪部屋)と第75代・大の里(二所ノ関部屋)の2名です。なお、第73代・照ノ富士は2026年1月場所中に現役を引退しています。
Q. 横綱が一人もいない「横綱不在」は過去にありましたか?
A. はい。過去に複数回あります。直近では2026年5月場所(夏場所)で両横綱がともに休場し、横綱不在の状態となりました。また1992〜1993年にかけても5場所連続で横綱不在の時期がありました。
Q. 日本出身の横綱は現在いますか?
A. います。第75代・大の里(二所ノ関部屋)が2025年に昇進し、日本出身横綱として活躍しています。前の日本出身横綱は第72代・稀勢の里で、2019年に引退していました。
現役横綱の顔ぶれを踏まえ、最後に歴代横綱の一覧を確認しましょう。
歴代横綱一覧——初代から第75代まで
現在まで75代にわたる横綱の歴史のなかで、特に幕内優勝回数・在位場所数などで際立つ横綱を中心に紹介します。
| 代 | 四股名 | 出身 | 型 | 主な記録・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 初代 | 明石志賀之助 | 日本 | — | 江戸時代の伝説的力士。記録は不確かな部分が多い |
| 第35代 | 双葉山定次 | 日本(大分県) | 雲龍型 | 69連勝の大記録。「角聖」と称される |
| 第48代 | 大鵬幸喜 | 日本(北海道) | 雲龍型 | 幕内優勝32回。昭和の大横綱 |
| 第58代 | 千代の富士貢 | 日本(北海道) | 雲龍型 | 幕内優勝31回。「ウルフ」の愛称で人気を集めた |
| 第69代 | 白鵬翔 | モンゴル | 不知火型 | 歴代最多・幕内優勝45回。在位84場所 |
| 第72代 | 稀勢の里寛 | 日本(茨城県) | 雲龍型 | 大の里昇進前まで「最後の日本出身横綱」。2019年引退 |
| 第73代 | 照ノ富士春雄 | モンゴル | 不知火型 | 大関から序二段への番付降下を経て横綱復帰。2026年1月引退 |
| 第74代 | 豊昇龍智勝 | モンゴル | 雲龍型 | 2025年初場所後に昇進。現役横綱(立浪部屋) |
| 第75代 | 大の里泰輝 | 日本(石川県) | 雲龍型 | 昭和以降最速の所要13場所で昇進。現役横綱(二所ノ関部屋) |
歴代75名の横綱のうち、幕内優勝回数の歴代記録を保持するのは第69代・白鵬の45回です。双葉山の69連勝、大鵬の32回優勝、千代の富士の31回優勝など、各時代に名横綱が大相撲を牽引してきました。
なお、完全な歴代横綱一覧(初代から第75代まで全員の昇進場所・最終成績・土俵入りの型)は、日本相撲協会公式サイトの「歴代横綱一覧」ページで確認できます(日本相撲協会公式サイトより)。
まとめ
横綱とは大相撲における最高位の地位であり、降格なし・引退責任という独自のルールのもとに成り立っています。2026年5月現在の現役横綱は第74代・豊昇龍と第75代・大の里の2名です。初代から75代まで続く横綱の歴史は、大相撲の歴史そのものでもあります。土俵入りの型(雲龍型・不知火型)や昇進のしくみを知ることで、大相撲の観戦がいっそう楽しくなるはずです。
