
寄り切りとは、まわしを掴んで相手に体を密着させたまま前進し、立った状態で土俵の外へ送り出す大相撲の基本技です。82手ある決まり手の中で最も頻繁に使われる技のひとつで、「四つ相撲の基本」として知られています。
寄り切りとは──大相撲の基本技7手のひとつ
寄り切りは、日本相撲協会が定める決まり手82手のなかでも「基本技」に分類される7手のひとつです。
相手のまわし(褌)を掴むか、体を密着させたまま前進し、相手が立った状態で土俵外に出ることが判定の要件となります。「四つに組んで前に出る」という相撲の基本を体現した技であり、実力差がそのまま結果に反映されやすい技でもあります。
なお、土俵際でまわしから手を離し、胸や肩を押して相手を出した場合は「押し出し」と判定されます。組んだ体勢を維持したまま送り出せるかどうかが、寄り切りと押し出しを分ける重要なポイントです。
Q. 寄り切りと押し出しの違いは何ですか?
A. 寄り切りはまわしを掴んで体を密着させたまま相手を出す技、押し出しはまわしを掴まず手や腕で押して相手を出す技です。土俵際でまわしから手を離して押した場合も押し出しと判定されます。
この「基本技」の定義と判定基準を押さえることで、観戦中の決まり手コールがより明確に聞こえてくるはずです。
寄り切りの動作を3ステップで解説
寄り切りは「組む・密着する・腰で押し出す」という3段階で完結します。一見シンプルに見えますが、各ステップに技術的な要点があります。
以下の図は、寄り切りの動作フローをステップごとに示したものです。
このように、まわしの引きつけから腰の送りまで一連の動作が途切れないことが寄り切りを決め切るための条件です。
ステップ1〈まわしを掴む〉
相手の懐に飛び込み、前褌または横褌をしっかりと引きつけます。まわしに手が届かない場合は、脇の下や背中に腕を回して体ごと抱え込む形をとります。引きつけが弱いと、相手に差し返されたり体を開かれたりして組み負けてしまいます。
ステップ2〈胸を合わせて腰を落とす〉
自分の胸を相手の胸に密着させ、両足を広げたすり足の体勢で重心を低く保ちます。腰が高い状態では投げや引き技による逆転を招くため、頭を相手の胸元に当てながら下から突き上げる圧力をかけ続けることが重要です。
ステップ3〈腰の送りで一気に寄り切る〉
左右のすり足を交互に踏み出しながら腰を前に送り、相手に反撃の隙を与えないまま土俵外へ送り出します。土俵際で焦って突き放そうとすると重心が上がり逆転の危険が生じるため、最後まで相手の重心を下からコントロールすることが肝心です。
Q. 寄り切りはどんな体格の力士が得意ですか?
A. 体重が重く腰が安定した力士が有利とされますが、低い姿勢と強い足腰があれば小兵力士も大型力士を寄り切ることができます。重心のコントロールと引きつけの強さが体格差を超えるポイントです。
この3ステップは、稽古場での「四股・すり足・てっぽう」という基礎鍛錬と直結しており、日々の反復が本場所での安定した寄り切りを生み出します。
押し出し・寄り倒しとの違いを表で比較
「前に進んで相手を土俵外に出す」という点では共通しながらも、まわしの取り方・体勢・相手の残り方によって判定が分かれます。この3技の違いを正確に知ることで、決まり手コールの意味がより深く理解できます。
| 項目 | 寄り切り | 押し出し | 寄り倒し |
|---|---|---|---|
| まわしの取り方 | 必ずまわしを掴む(四つ身) | まわしは引かない(手・腕で押す) | 必ずまわしを掴む |
| 基本の体勢 | 胸を合わせて密着する | 上半身を起こし距離を保つ | 胸を合わせ、体重を相手に預ける |
| 足運び | すり足で一歩ずつ前進 | 細かく力強く踏み出す | 踏み込みながら浴びせ倒す |
| 相手の決着体勢 | 立ったまま土俵外へ | 立ったまま土俵外へ | 後方へ倒れながら土俵外へ |
特に「寄り切りか押し出しか」は、土俵際での一瞬の体勢の違いで決まります。取組後に決まり手を振り返る際、この表を参照すると判定の根拠が理解しやすくなります。
Q. 寄り切りと寄り倒しはどう違いますか?
A. 相手が立ったまま土俵外に出れば寄り切り、体勢を崩して後方に倒れながら出れば寄り倒しになります。まわしを掴む点は共通ですが、決着の瞬間の相手の体勢で判定が分かれます。
こうした微妙な判定の違いを知ると、行司や勝負審判の判断にも注目しながら取組を楽しめるようになります。
決まり手ランキングにおける寄り切りの位置づけ
日本相撲協会が協力した2015〜2024年の全取組データ(序ノ口から幕内まで)によると、2024年の寄り切りの割合は全取組の24.6%で2位です(1位:押し出し26.7%)。(ABEMA大相撲公式Xおよび日本相撲協会公式データより)
注目すべきは近年の変化です。2015〜2019年は寄り切りが1位(2015年:26.2%)でしたが、2020年以降は押し出しが首位となっており、突き押し相撲の台頭が数字にも表れています。それでも両者で全取組の約半数を占める状況は変わっておらず、相撲の勝敗の基本構造が変化していないことを示しています。
X(旧Twitter)上では、寄り切りが「2位常連」となったことについて「押し相撲の力士が増えた」「四つ相撲の力士が減った」という声がある一方、「それでも25%近くを占える技の完成度は別格」とする見解も見られます。
Q. 寄り切りは決まり手ランキング何位ですか?
A. 日本相撲協会の協力データによると、2024年は押し出し(26.7%)に次ぐ2位で、割合は24.6%です。2020年以前は寄り切りが1位でしたが、近年は押し出しが首位となっています。
決まり手ランキングの変遷を追うと、時代ごとの相撲スタイルの変化が浮かび上がります。
寄り切りを得意とする力士──歴代の名手と現役トップ
四つ相撲を主体とし、長期間にわたって上位に在位した力士ほど、寄り切りによる勝ち星を積み重ねる傾向があります。
歴代の名手として特に名前が挙がるのは、第69代横綱・白鵬(圧倒的な右四つ・左上手からの引きつけ)、第58代横綱・千代の富士(前褌を引きつけての高速の寄り切り)、元大関・魁皇(豪腕から繰り出す力強い寄り切り)、第65代横綱・貴乃花(完璧な右四つの型)、第55代横綱・北の湖(深いもろ差しからの寄り切り)らです。正確な通算回数の公式記録は現時点で確認できませんが、いずれも四つ相撲の完成度が高い横綱・大関として知られています。
現役力士では以下の5名が寄り切りを主要な決まり手としています。
- 照ノ富士 春雄(第73代横綱):規格外の体格から上手を引きつけ、相手を完全に封じ込めて寄り切る王道の相撲
- 朝乃山 広暉:右四つ・左上手の美しい型を持ち、現役屈指の寄り切りの技術を誇る
- 琴櫻 将傑(大関):深い懐を活かして相手を包み込むようにして寄り切る
- 豊昇龍 智勝(大関):多彩な技を持つが、勝利の約3割を寄り切りが占める
- 若隆景 渥(小結):体重130kg台と小兵ながら、低い姿勢からの鋭い足運びと強靭な下半身で大型力士を寄り切る
2026年5月場所(夏場所)10日目には、若隆景が197kgの熱海富士を低い姿勢から前に出て寄り切り、体格差を技術で覆す一番として注目を集めました。
Q. 寄り切りを得意とする現役力士は誰ですか?
A. 照ノ富士、朝乃山、琴櫻、豊昇龍、若隆景などが四つ相撲を主体とし、寄り切りを主要な勝ち手としています。特に若隆景は小兵ながら大型力士を寄り切る技術が高く評価されています。
「寄り切りができる力士は番付が安定する」というのは、長年にわたって解説者の間で共通して語られてきた見解です(NHK大相撲中継解説より)。前に出る相撲の完成度が、その力士の地力をそのまま示すとも言えます。
まとめ
寄り切りは、まわしを引きつけて体を密着させ、すり足で前進して相手を立ったまま土俵外へ送り出す大相撲の基本技です。2024年の決まり手ランキングでは24.6%で2位(日本相撲協会協力データより)と、押し出しと並んで相撲の勝敗の約半数を占めます。「前に出る・低く構える・引きつけを切らさない」という3つの要素が高い次元で揃ったとき、寄り切りは最も確実な勝ち手となります。
