元横綱白鵬が率いた宮城野部屋は、2024年に弟子・北青鵬の暴力問題を受けて閉鎖処分となり、宮城野親方(白鵬)と所属力士全員が伊勢ヶ濱部屋へ転籍した。その後、部屋再興の見通しが立たないまま白鵬が2025年6月に相撲協会を退職し、計画は一時白紙となった。しかし2026年3月、元幕内・炎鵬が3年ぶりの十両復帰を決め、年寄名跡取得の資格を満たしたことで、宮城野部屋再興論が再び動き出す可能性が出ている。
結論:白鵬退職で白紙化も、炎鵬復帰で再興論が再燃
宮城野部屋の再興は、2025年6月の白鵬退職によって一時的に事実上の白紙状態となった。2026年1月場所では旧宮城野部屋出身の力士8人が四股名を「〇〇富士」に一斉改名し、「部屋再興がなくなった」という見方がファンの間で広がった。
しかし2026年3月25日、日本相撲協会の番付編成会議で炎鵬の十両復帰(5月場所)が正式に発表された。幕内経験者が序ノ口まで番付を落としてから十両に戻るのは史上初という異例の復活劇だ。この復帰により炎鵬は年寄名跡を取得できる条件(関取通算30場所以上)を満たす見通しとなり、現役引退後に「宮城野」名跡を引き継いで部屋を再興するシナリオが現実味を帯びてきた。
北青鵬暴力事件から閉鎖まで:宮城野部屋問題の全経緯
宮城野部屋が閉鎖に至った直接の原因は、幕内力士・北青鵬による後輩力士への暴力行為だった。
2024年1月、協会のコンプライアンス委員会に通報が入り、調査が開始された。2月中旬にメディアが報道し事実が明るみに出ると、2月23日の臨時理事会で北青鵬への「引退勧告相当」と、引退届の受理が決定した。
師匠の宮城野親方(白鵬)への処分は、単なる監督責任にとどまらなかった。「暴行を把握しながら協会のコンプライアンス担当理事への報告を怠った」うえ、「協会の調査に部外者を関与させて妨害した」と認定され、委員から無役の年寄への2階級降格と報酬20%・3ヶ月の減額という重い処分が科された。
さらに協会は「師匠としての素養・自覚が大きく欠如している」と判断し、2024年3月場所中は大島部屋付きの玉垣親方(元小結・智ノ花)が師匠代行として派遣された。翌4月以降は「師匠・親方としての指導・教育を行うため」として、宮城野部屋を期限を定めずに伊勢ヶ濱一門預かりにする方針が決定。宮城野親方(白鵬)と所属力士・親方全員の伊勢ヶ濱部屋への転籍が2024年3月28日の理事会で正式に発表された。
転籍直前の時点で宮城野部屋には所属力士が20人いたが、転籍時に1人が引退。その後も引退者が相次ぎ、転籍の混乱が部屋の人材に打撃を与えた。
伊勢ヶ濱部屋転籍後の2年間:何が起きていたか
転籍後、宮城野親方(白鵬)は伊勢ヶ濱親方(元横綱旭富士)の指導のもとで師匠としての「再教育」を受ける立場となった。毎場所後、伊勢ヶ濱親方と浅香山理事(元大関魁皇)が協会執行部に状況を報告する体制が敷かれ、「日々真面目に業務をこなし、弟子への指導も丁寧にやっている」との評価が執行部に届いていたとされる。
部屋再興については、過去に不祥事で閉鎖された木瀬部屋(2010年、暴力団観戦問題)が北の湖部屋預かりを経て約2年で再興した前例が念頭に置かれていた。角界OBからは「協会はとにかく前例主義で、2年のみそぎを経た上で宮城野部屋の再興を本気で考えていた」との証言もある。執行部も白鵬の反省姿勢を好意的に受け止めていたとされる。
しかし転籍から1年が経過した2025年3月、春場所後の定例理事会でも部屋の処遇は議題すら上らなかった。元日本経済新聞記者でスポーツライターの若林哲治氏は、「閉鎖という重大な処分は『その後』がもっと重い。社会通念上も1年を一定の区切りとして、処分解除なり中間報告なりが議題に上るのが自然だが、話も出なかった」と、協会の対応を問題視している。
宮城野親方(白鵬)は2025年4月、「1年たったのにという思いはある」「期限は上の人が決めること」と心境を語っていた。同月には退職の意向を固めたとの報道が相次ぎ、本人は当初否定したものの、2025年6月2日に退職願の提出が報道され、6月9日付で正式に退職した。浅香山親方らが「宮城野部屋再開への道筋を示して慰留した」が、翻意しなかった。
退職後、空いた宮城野の名跡は元横綱旭富士(9代伊勢ヶ濱)が「14代宮城野」として継承。同親方は退職会見の場で「旧宮城野部屋の力士の中から名跡を継げる者が出てきたら譲渡して、いずれその力士が宮城野部屋を復興させていけるように力を尽くしたい」と表明した。
「継承」か「新設」か:再興の条件をめぐる制度の壁
宮城野部屋の再興をめぐっては、協会がこれを「既存部屋の継承」と扱うか「消滅した部屋の新設」と判断するかによって、師匠に求められる資格要件がまったく異なるという問題がある。
継承と判断された場合
- 幕内通算12場所以上、または関取(十両以上)通算20場所以上
新設と判断された場合
- 横綱もしくは大関の経験者、または三役通算25場所以上、または幕内通算60場所以上
炎鵬は2026年5月場所から十両に復帰する。十両在位が1場所でも増えれば、関取通算30場所以上という年寄名跡を取得できる条件(継承・新設いずれの場合も共通で求められる前提資格)を満たすことになる。「継承」扱いであれば炎鵬は部屋持ち親方の資格を持てるが、「新設」と判断されると幕内60場所以上などの高いハードルが立ちはだかり、再興は炎鵬の代では実質不可能となる。
この判断を行うのは理事会だ。2026年春場所後の評議委員会を経て選任された新理事10人がどのような結論を出すかが、宮城野部屋の命運を左右する可能性がある。
(編集部分析)さらに複雑な背景として、退職した白鵬が長年主催してきた少年相撲大会「白鵬杯」を通じて有望な新弟子候補のパイプを持っているという事実がある。再興した宮城野部屋に白鵬が新弟子を送り込む形で影響力を復活させることを警戒する意見が角界内部にあるとされ、これが理事会の判断に影響を与える可能性も否定できない。
炎鵬・伯乃富士・天照鵬:旧宮城野部屋力士たちの現在地
旧宮城野部屋の力士たちは現在、伊勢ヶ濱部屋(師匠:元横綱照ノ富士)に在籍し、それぞれの現役生活を続けている。
2026年1月場所の番付発表と同時に、伊勢ヶ濱部屋所属の力士9人(うち旧宮城野部屋出身8人)が四股名を一斉改名した。幕内の伯桜鵬は「伯乃富士」、幕下の天照鵬は「三重ノ富士」など、伊勢ヶ濱部屋の伝統である「富士」のつく四股名への改名が相次いだ。旧宮城野部屋出身力士が四股名に多用していた「鵬」の文字が消えたことで、ファンから「宮城野部屋の再興がなくなった」と受け止める声が多く上がった。
唯一改名しなかったのが炎鵬だ。「このしこ名で自分という存在がある。しこ名に恥じないよう名前を大切にしていきたい」と語り、師匠から改名の打診がなかったことについては「親方の心遣いだと思う」と述べた。この「据え置き」は、炎鵬が将来的な宮城野部屋再興の担い手として意識されていることを示唆しているとの見方がある。
炎鵬は頚椎の重傷(脊髄損傷)から長期のリハビリを経て、2025年秋場所頃から番付への復帰を果たした。2026年1月場所では幕下11枚目で6勝1敗、3月場所では幕下4枚目で5勝2敗と結果を残し、3月25日の番付編成会議で18場所ぶりの十両復帰が発表された。幕内経験者が序ノ口まで番付を落としたのち十両に戻るのは史上初という異例の軌跡だ。
協会内・ファンの声:期待と懸念が交錯する再興論
2026年春場所前後、宮城野部屋の再興をめぐって角界内外では対立する意見が出ている。
再興に前向きな理由としてあがるのが、伊勢ヶ濱部屋での暴行問題だ。春場所前に伊勢ヶ濱親方(元横綱照ノ富士)が弟子の伯乃富士を殴打したとの問題が発覚した。旧宮城野部屋の力士と元々の伊勢ヶ濱部屋の力士が同一屋根の下に生活している状況が問題の背景にあるとの指摘があり、「宮城野部屋を再興させたほうがいい」との意見が理事会でも出ているとされる。炎鵬が再十両となって年寄名跡取得の資格を得るタイミングで、部屋再興が動き出す可能性があると角界関係者は指摘する。
一方で慎重論もある。白鵬が協会内で煙たがられていた経緯があり、再興を機に白鵬のスカウトパイプが復活し影響力が増すシナリオを警戒する意見が根強い。
SNS上では炎鵬の十両復帰が決まった2026年3月25日前後、「ようやく宮城野部屋再興への道が開けた」との期待の声が相当数見られた。一方で1月場所の一斉改名については、「部屋再興できても炎鵬がゼロからのスタートになるのか」「伯桜鵬という名前が消えて残念」などの複雑な感情が交錯していた。
今後の見通し:炎鵬引退後が最初のターニングポイント
宮城野部屋再興の現実的なシナリオとしてもっとも有力視されているのは、炎鵬が現役引退後に現宮城野親方(元横綱旭富士)から名跡を譲り受け、師匠として部屋を立ち上げる流れだ。現宮城野親方がその意向を公言しており、協会がこれを「継承」扱いとすれば資格要件の面でも現実的な道筋となる。
鍵を握るのは2026年5月場所以降の理事会の判断だ。伊勢ヶ濱親方の処分内容、宮城野部屋の「継承か新設か」の解釈、炎鵬の年寄名跡取得のタイミングという3つの要素が絡み合っており、動向を注視する必要がある。
再興が実現した場合でも、「白鵬杯」などの新弟子スカウトパイプを通じた白鵬の関与をどう位置づけるかという問題が残る。協会内では依然として「前例主義」と「白鵬への警戒感」が交錯しており、炎鵬の現役生活の長さと理事会の政治的判断が、宮城野部屋の行方を決める最終的な変数となるとみられる。
よくある質問(FAQ)
Q. 宮城野部屋はいつ閉鎖されたのか?
A. 2024年3月の理事会で閉鎖が決定し、同年4月から宮城野親方(白鵬)と所属力士全員が伊勢ヶ濱部屋へ転籍しました。閉鎖期間は「無期限」と定められています。
Q. 白鵬はなぜ相撲協会を退職したのか?
A. 転籍から1年が経過しても部屋再興の見通しが理事会でまったく議論されなかったことが直接の要因とされています。伊勢ヶ濱部屋の師匠が照ノ富士に交代するという状況変化も影響したと報じられています。
Q. 宮城野部屋の再興を引き継ぐのは誰か?
A. 現宮城野親方(元横綱旭富士)が「旧宮城野部屋の力士に名跡を譲渡し、部屋を復興させたい」と明言しています。現時点での最有力候補は炎鵬とされています。
Q. 炎鵬は宮城野部屋の再興条件を満たしているか?
A. 2026年3月場所後の十両復帰決定により、関取通算30場所以上という年寄名跡取得の条件を満たす見通しとなりました。ただし部屋再興が「継承」か「新設」かの解釈次第で、求められる条件が大きく異なります。
Q. 旧宮城野部屋の力士たちが一斉に四股名を変えたのはなぜか?
A. 2026年1月場所から、旧宮城野部屋出身の8人が伊勢ヶ濱部屋の伝統に倣い「〇〇富士」の四股名に改名しました。「今後は伊勢ヶ濱部屋でやっていく」という意思表示とも受け取られています。
Q. 宮城野部屋の「継承」と「新設」は何が違うのか?
A. 継承なら幕内通算12場所以上または関取通算20場所以上が条件です。新設扱いになると横綱・大関経験または三役通算25場所以上・幕内60場所以上が必要となり、炎鵬が条件を満たせなくなる可能性があります。
Q. 伊勢ヶ濱部屋での暴行問題は宮城野部屋再興とどう関係するか?
A. 照ノ富士親方による伯乃富士への暴行問題が春場所前に発覚しました。旧宮城野部屋出身力士と伊勢ヶ濱部屋力士が同居していることが問題の背景にあるとの指摘があり、宮城野部屋を早期に再興すべきとの意見が理事会内でも出ているとされています。
参考情報
- 日本相撲協会 公式サイト:https://www.sumo.or.jp/
- 時事通信「元白鵬、相撲協会を退職」(2025年6月2日):https://www.jiji.com/jc/article?k=2025060200490&g=spo
- 日本経済新聞「宮城野部屋、協会を退職報道 本人否定」(2025年4月9日):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC09CF30Z00C25A4000000/
- NEWSポストセブン「宮城野部屋再興はあるか?炎鵬の勝ち越しで現実味」(2026年3月):https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/postseven/sports/postseven-2098849
