大相撲の懸賞金とは、幕内の取組で勝った力士に贈られる賞金で、1本7万円と決められています。このうち1万円は日本相撲協会の手数料で、勝った力士の獲得金額は6万円です。ただし土俵の上で手渡される封筒に入っているのは、2025年5月場所から現金1万円だけになりました。この記事では、協会公式の金額と申込ルールを起点に、力士の手元にいくら残るのか、どの取組に懸賞が付くのか、そして受け取るときの手刀の意味までを整理します。
この記事でわかること
- 懸賞1本は7万円。協会手数料1万円を引いた6万円が勝った力士の獲得金額です
- 土俵で渡される封筒の現金は1万円。2025年5月場所から3万円より減り、差額は口座振込に変わりました
- 企業の申込は1日1本以上・1場所15本(105万円)以上から。個人では申し込めません
- 懸賞は幕内の取組にだけ懸けられ、不戦勝には付きません
- 1番63本、1場所3,563本、1日314本——いずれも近年に更新された記録です
大相撲の懸賞金とは?1本7万円で勝った力士に6万円が渡る
大相撲の懸賞金とは、幕内の取組に懸けられる賞金で、1本7万円のうち6万円が勝った力士に渡ります。
日本相撲協会の公式サイトによれば、1本70,000円(税込)のうち10,000円が手数料、勝ち力士の獲得金額は60,000円と定められています。企業や団体が土俵の上の一番を指定して懸けるもので、勝った側だけが受け取ります。
手数料の10,000円は、その日の会場で配られる取組表への提供者名の掲載料と、取組直前の場内放送の読み上げ料にあたります。つまり懸賞は力士への賞金であると同時に、企業にとっては紙面と館内アナウンスを買う広告でもあります。提供者名は活字15文字以内で作ることになっており、その原稿がそのまま場内に流れます。
1本の金額は据え置かれてきたわけではありません。1991年5月場所から6万円、2014年5月場所から6万2000円、そして現在の7万円になったのは2019年(令和元年)九月場所からです。協会公式サイトの内訳にも「令和元年6月改定(九月場所より)」と明記されています。
土俵の上でやりとりされているお金の流れを、図で確認してください。
図の下段、封筒・振込・積立の三つに分かれる部分は、協会公式が「勝ち力士獲得金額60,000円」とだけ示している範囲の内側の話です。次の見出しで、この分かれ方が2025年に変わった経緯を見ていきます。
土俵の封筒に入っているのは1万円——2025年5月場所からの受け取り方の変更
土俵の上で手渡される封筒の現金は、2025年5月場所から3万円ではなく1万円になりました。
減った2万円は銀行口座への振り込みに切り替わったもので、力士が受け取る総額そのものは変わっていません。
この変更は2025年5月、日本相撲協会が発表したものです。沖縄タイムスなどの報道によれば、十両以上で構成する力士会から、大量の現金を持ち歩くことによる盗難の懸念が示されたことが理由とされます。キャッシュレス化を求める声もあったと伝えられています。
残る3万円は、納税に充てるための積立として協会が力士名義で預かり、引退時に精算される仕組みとされます。懸賞金は給与ではなく力士個人の所得として扱われるため、受け取った年に税負担が生じます。あらかじめその分を協会が留め置くのが、この積立の役割です。
改定の前後を並べると、動いたのは「土俵で渡すか、口座へ振り込むか」という受け渡しの方法だけだとわかります。
| 1本7万円の行き先 | 2025年3月場所まで | 2025年5月場所から |
|---|---|---|
| 協会の手数料 | 10,000円 | 10,000円 |
| 土俵上で手渡す現金 | 30,000円 | 10,000円 |
| 銀行口座への振込 | — | 20,000円 |
| 納税充当の積立(引退時に精算) | 30,000円 | 30,000円 |
| 勝ち力士の獲得金額 | 60,000円 | 60,000円 |
中継で映る分厚い封筒の束から「1本7万円がそのまま入っている」と受け取られることがありますが、封筒の中身は獲得金額の一部です。同じ理由で、懸賞の本数に3万円を掛けて力士の収入を計算する見積もりも、2025年5月場所以降は実態と合わなくなりました。
Q. 懸賞金に税金はかかりますか?
A. かかります。懸賞金は力士個人の所得として扱われるため、受け取った分に応じた納税が必要とされます。協会が預かる3万円は、その納税に充てるための積立で、引退時に精算される仕組みとされています。
企業はどう懸賞を出すのか——1場所15本105万円と懸賞旗のきまり
懸賞を出せるのは企業や団体で、申込は1日1本以上、かつ1場所15本以上からです。
1場所15日間で15本を申し込むと1,050,000円(税込)で、追加は1本単位で受け付けられています。
申し込みの窓口は日本相撲協会の懸賞係です。協会公式サイトには、東京都墨田区横網1-3-28の協会宛て、電話03-3623-5111という連絡先が案内されています。旗の製作は懸賞主が自分で手配し、当日は自ら持ち込む決まりです。協会公式サイトでは製作業者も紹介されています。
土俵を回るあの旗にも規格があります。寸法は横70cm×縦120cmで、土俵の上に掲げるものであるためデザインには一定の制限があります。派手さを競う場ではなく、神事に由来する土俵の様式のなかに収まるように作られたものだと考えると、あの縦長の形にも理由が見えてきます。
申し込みの条件を一覧にすると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1本の金額 | 70,000円(税込) |
| 1場所(15日)15本 | 1,050,000円(税込) |
| 最低申込本数 | 1日1本以上、1場所15本以上(追加は1本から) |
| 懸けられる取組 | 幕内の取組のみ |
| 提供者名 | 活字15文字以内。取組表に掲載され、場内放送で読み上げられる |
| 懸賞旗 | 横70cm×縦120cm。懸賞主が製作して持ち込む |
| 申込・問い合わせ | 日本相撲協会 懸賞係(東京都墨田区横網1-3-28/03-3623-5111) |
観戦のとき、旗の枚数と読み上げられる社名に耳を傾けると、その日の館内の熱がどこに集まっているかが見えてきます。国技館での一日の流れは「大相撲観戦の楽しみ方|一日の流れと土俵入り・懸賞・国技館グルメの見どころ」で解説しています。
Q. 個人でも懸賞を出せますか?
A. 協会公式サイトの案内は企業・団体を対象とした内容になっており、個人名義での申し込みは受け付けられていません。応援したい力士の取組に懸けたい場合も、まずは懸賞係への問い合わせが必要です。
懸賞が付く取組・付かない取組——幕内のみ、不戦勝には付かない
懸賞を懸けられるのは幕内の取組だけです。十両以下の取組には付かず、勝敗が土俵の上で決まらない不戦勝の一番にも懸賞は渡りません。
日本相撲協会公式サイトは「幕内取組にのみ、希望の取組、応援している力士の取組等に懸賞を懸けることができます」と案内しています。番付の階級と幕内の位置づけについては「番付とは?相撲の階級・仕組み・見方を初心者向けにわかりやすく解説」で詳しく扱っています。
懸賞は取組の5日ほど前までに申し込む運用とされ、指定した力士が休場すれば、その一番に懸けた懸賞は取りやめるか、別の取組へ懸け替えることになります。相手が休場して不戦勝になった日は、勝ち名乗りはあっても懸賞は動きません。土俵の上で勝負がついたときにだけ贈られる——という原則が、ここに表れています。
休場が番付や取組にどう響くかは「休場力士とは?番付への影響・公傷制度・今場所の休場者を解説」にまとめています。
Q. 力士が休場すると、懸けられた懸賞はどうなりますか?
A. 取りやめるか、別の取組へ懸け替えるかのどちらかになります。休場者が出ると懸賞が他の一番へ移るため、上位に休場が重なった場所では、残った力士の取組に本数が集まりやすくなります。
手刀の作法——右手で三度、「心」の字を描くとされる所作
勝った力士が切る手刀は、右手で三度、左・右・中の順に切るのが作法とされています。
三つの動きで「心」という字を描いているという説明が広く知られています。
三度切る所作は、造化三神と呼ばれる神々に感謝を捧げるものだという解釈が伝えられています。土俵が神事に由来する場であることを踏まえると、勝った力士が真っ先に賞金へ手を伸ばすのではなく、まず一礼を形にしてから受け取るという順序そのものに意味があります。
現在のような手刀は、昭和の大関・名寄岩静男から広まったものとされ、それ以前はもっと無造作に受け取るのが普通だったと言われます。つまりこの所作は太古からの決まりではなく、ある力士の振る舞いが美しいものとして受け継がれ、作法として定着したものです。
中継を見ていると、力士ごとに手刀の丁寧さや角度が違うことに気づきます。所作の乱れが話題になることもありますが、それは裏を返せば、勝敗と同じくらい受け取り方を見られているということでもあります。土俵まわりの役割については「行司とは?階級・軍配の房の色・給料と立行司の役割を徹底解説」、土俵そのものの構造は「土俵の大きさを徹底解説|直径・高さ・各部位の名前まで」で解説しています。
Q. 手刀はなぜ右手で切るのですか?
A. 右手で切るのが作法とされ、三度の動きで「心」の字を描くと説明されます。造化三神への感謝を表すという解釈も伝えられており、賞金を受け取る前に礼を形にするための所作と考えられています。
懸賞本数の記録——1番63本、1場所3,563本、1日314本
懸賞本数の最多は、1番が63本、1場所が3,563本、1日が314本です。
記録は近年になって塗り替えられ続けており、この三つはいずれも2024年以降に生まれた数字です。
1番あたりの最多は、2024年1月場所14日目の琴ノ若(現・琴櫻)対霧島の一番で記録された63本です。中日スポーツによれば、この日の結びが不戦勝になったことで14本が懸け替えられたことも一因で、10秒ほどの取組で189万円が動きました。従来の記録は2017年1月場所千秋楽、新横綱・稀勢の里が白鵬を破った一番の61本でした。
ここで注意したいのが、当時の189万円は「63本×3万円」で、土俵の上で渡された現金の合計だという点です。2025年5月場所から封筒の中身は1万円になったため、同じ63本でも土俵で手渡されるのは63万円です。獲得金額そのものは63本×6万円で378万円と変わりません。
1場所の総本数は、2026年5月場所(夏場所)の3,563本が最多です。時事通信によれば、これは同じ2026年の1月場所の3,355本を208本上回る数字で、同場所11日目には1日あたり314本という記録も生まれました。
| 区分 | 記録 | 場所・取組 |
|---|---|---|
| 1番あたり最多 | 63本 | 2024年1月場所14日目/琴ノ若(現・琴櫻)対霧島 |
| 1番あたり従来の記録 | 61本 | 2017年1月場所千秋楽/稀勢の里対白鵬 |
| 1場所の総本数最多 | 3,563本 | 2026年5月場所(夏場所) |
| 1場所の従来の記録 | 3,355本 | 2026年1月場所(初場所) |
| 1日あたり最多 | 314本 | 2026年5月場所11日目 |
記録が集中する条件は、実は横綱が万全に揃った場所とは限りません。その典型が、1場所の最多を記録した2026年夏場所でした。この場所は横綱・大の里が左肩痛、大関・安青錦が初日前から休場し、横綱・豊昇龍も2日目から途中休場するという異例の入りとなり、その日の最終取組である結びの一番には、大関・琴櫻が連日登場することになりました。
懸賞は注目度の高い取組に集まります。上位の休場が重なったことで、本来なら複数の横綱・大関に分かれていたはずの旗が、結びに出続けた琴櫻の一番へ集中しました。琴櫻自身は腰椎捻挫を抱えながら土俵に上がり続け、終盤に休場して3勝9敗3休で場所を終えています。勝てなかった日の懸賞は対戦相手のものになりますが、大関が土俵を務め続けたことで結びの格が保たれ、そこに旗が集まり続けたという構造は見落とせません。この場所の優勝は、12勝3敗で大関・霧島との優勝決定戦を制した小結・若隆景が飾りました。25場所ぶり2度目の賜杯です。
このときの詳しい状況は「【大相撲夏場所2026】千秋楽取組表と優勝決定戦の条件を解説」、力士それぞれの歩みは「琴櫻将傑とは?プロフィール・得意技・成績・横綱昇進の可能性を徹底解説」「若隆景とは?荒汐部屋の技巧派関脇|おっつけと2度の優勝・復帰への現在地」で扱っています。
まとめ|懸賞金は賞金であり、土俵に集まる注目の目盛りでもある
大相撲の懸賞金は1本7万円で、勝った力士の獲得金額は手数料を引いた6万円です。
土俵で渡される封筒の現金は2025年5月場所から1万円になり、2万円は口座振込、3万円は納税充当の積立として協会が預かる形に整理されました。申し込めるのは企業・団体で、1日1本以上・1場所15本以上から。懸賞が付くのは幕内の取組だけで、不戦勝には渡りません。
本数は近年になって記録が更新され続けており、1番63本、1場所3,563本、1日314本という数字が並びます。そこには企業の広告投資の動きだけでなく、誰が結びを務めているのかという番付の状況も映り込んでいます。
制度の全体像は「大相撲の仕組みを徹底解説|取組・番付・ルールを初心者向けにわかりやすく」、番付の見方は「番付とは?相撲の階級・仕組み・見方を初心者向けにわかりやすく解説」、観戦の楽しみ方は「大相撲観戦の楽しみ方|一日の流れと土俵入り・懸賞・国技館グルメの見どころ」をあわせてご覧ください。
土俵を回る旗の枚数は、その一番にどれだけの目が集まっているかを、誰にでも見える形にしたものです。勝った力士はその旗の列を背にして、賞金へ手を伸ばす前にまず右手で三度、静かに手刀を切ります。金額の大小にかかわらず、その一礼だけは変わらずに繰り返されてきました。土俵の上で受け渡されているのは金額であると同時に、勝者が礼を尽くす所作そのものでもあります。

